少年編 アメリア① 前
Last Hope 奪われた世界と凌辱の唄。
そのゲームは、とある日本のゲーム会社の遺作である。
重厚なストーリーと圧倒的なボリューム、そしてシビアながらも自由度の高いゲームバランスで有名な硬派なアクションRPG。「夢見の大陸シリーズ」を次々に出し続けた会社だ。
色々と大人の事情があり、その会社はLHの発売を最後に空中分解をしてしまった。
俺はそんな夢見の大陸シリーズの大ファンで、同じ世界観で作品と作品が繋がる大作RPGのヘビープレイヤーだった。
売り上げは順調じゃないなんてニュースを聞いた時には、最新作を数本買って友人に勧めたり、ネットで拡散したりと、そんなことを苦にも思わないファンだった。
だからこそ、起死回生の一手として最後に打たれたLHだけはどうしても買うことができなかった。
愛のある成人向けゲームならばまだしも。
どんな形であれ、やはり女の子の悲しい顔を見るのは嫌だし、絶望した顔はもっと嫌だ。
……俺がプレイしたいのは、夢見の大陸シリーズで活躍したあの人たちがいる世界の話の続きであって、凌辱ゲーではないんだ。
登場人物たちが壁を乗り越えながら幸せな結末を希求する、そんな物語が好きだ。
「凌辱ゲーはないない。そんなの受け入れられるかってんだ」
独言る。
なぜか“俺”――ベリアルの部屋で一人になると自由に喋れるようになったので、ベラベラと独り言を楽しんでいる。
言論の自由万歳!!
え? 変人だって?
そんなのは言論の自由がある人の驕りだぞ!
「アズーリがいるってことは、この世界はLH確定なんだけどなぁ」
大百科で調べた限りの知識では、一応LHも夢見の大陸シリーズと世界観を共有しているとのことだ。……開発費の節約のためだったりするらしい。
「せめて違う世界にしてよ。あのキャラたちがいる世界のどこかで淫語を吐きながらの獣姦が行われるとか、嫌悪感半端ねえ」
自分が大ファンだった主人公たちやヒロインたちのことを思い出しながらぼやく。
それに、コストカットのため、アダルトゲームなのに過去作と同じ、プレイヤースキルを大きく試すようなゲームシステムだという。
……売れるわけないじゃん。
「みんな自家発電するために買ってるのに、何時間もかけて練習とかスキル合わせとかするかってんだ」
このゲームにかけた数百時間を回顧する。捧げた時間のほとんどは中毒性の高い対人戦だったが、それでも充実なゲーム体験だった。
……っと、思いを馳せてばかりいても仕方ない。
今大事なのは、目が覚めてもベリアルくんのままなことと、これから先どうやっていくかってこと。
ベリアルくんといえば、原作LHでは必ず死ぬことで有名だ。
大百科事典によると、LHでは全てのエンディングで、主人公が通うことになる士官学院の卒業写真がファイナルカットで入る。
無事卒業するエンドでも、凌辱エンドでも、なんなら主人公が死ぬエンドでも同じらしい。
そしてその写真では、エンディング時点でのクラスメイトの状態はそのまま載る。
戦闘で片腕無くなれば、写真にも同じ姿で載るし、片目を失っても同じ。
監禁されている状態で終われば、縄でぐるぐる巻にされたまま写真に載る。凌辱エンドなら、卒業写真に知らないおじさんがヒロインを襲ったままで載ったり、触手モンスターが登場したりもする。
「……どうやって撮ってるんだよ」
ま、そんなツッコミはさておき、載らない場合もある。それは、死亡した場合。
そして、誰一人このルールからは外れない。
主人公であるウェルターくんですら、死亡エンドでは主人公不在の卒業写真でゲームは終わる。
そして重要なのはこれから。
チュートリアル途中で士官学院を辞めるという選択肢を選んだ時のエンディング以外では、ベリアルくんは卒業写真には載らないという。
「……不運すぎるな、ベリアルくん」
不運なのはベリアルくんに憑依した俺も同じなのだが。
ため息が出そうだが、ぐっと我慢する。
視点を変えよう。
「扱かれる日々とはおさらばだ! 素晴らしいじゃないか」
前世の講義や仕事からは解放される!
多忙な日々とはおさらばである!
前世に対して思うところがないわけではないけど、食えない昨日の残飯より、明日の腹の足しだ。
お金で困ることも……、ベリアルくんのいるナイトフォール家がかなり裕福な伯爵家であることを考えれば、ないと思って良さそうだ。
父親であるルーカスとは不仲な雰囲気があるが……、おこぼれに預かれば十分だろう。
それに!
LHは夢見の大陸シリーズとゲームシステム含めて同じ世界観だという。
「せっかくのゲームの世界! 楽しんだもの勝ちだよね!」
そうと決まれば早速行動だ!
そう思って立ち上がった俺だったが、
コンコン。
とドアが叩かれ、それに対して、
「入れ」(どうぞー)
と、いつも通り俺の言論の自由は奪われ、“俺”の言葉が出る。
うーん、このコミュニケーション問題、どうやら他人がいる時のみ発動するみたいだ。
そう考察していると、ゆっくりとドアが開き、
「アメリア……、クレイトン……ひっ、う……っ、です。ひっく。……申しつけられた、通り……うぅ、身を清めて……、まいりました…………」
そこには、特徴的なオッドアイから大粒の涙を流しながら泣きじゃくるお風呂上がりでポカポカの黒猫系美少女、アメリアさんが立っていた。
まいりました。
俺が言いたかった。
†
私、アメリア・クレイトンは商家の娘です。
母さんが一代で築き上げた商会、クレイトン商会はオルディア共和国でも五本指に入る大きさで、新興の商会としてはありえないような規模のものでした。
父は母さんがまだただの旅商人だった頃に、馬車を引く馭者として母さんに雇われた人。
クレイトン商会が大きくなり、父の馭者の仕事がなくなった頃に二人が結婚し、私を含めた数人の子を産みました。
兄弟たちを含めて、私たちは何も不自由のない生活を送ることができました。
お家にはお手伝いさんがいて、私たちはそれぞれの個室を持っています。
綺麗な服を着て、美味しいものもお腹いっぱい食べることができました。
多分、街にいる子どもたちにはすごく羨ましがられたと思います。服が一着しかなくて、小さくても毎日ボロボロに着続けている子どもや、年に一度も肉を食べることができない子どももいる中で、私たちは毎食デザートにまでありつけられたのだから。
私たちは育ててくれたお手伝いさんにも恵まれました。
自分たちにも子どもがいるのに、私たちにも分け隔てなく愛してくれたんです。
競馬場、賭博場に出かけては帰ってこない父親の代わりに、仕事でもないのに国のことや魔法のこと、剣術のことなど色々と教えていただきました。
カレン――そのお手伝いさんの娘が時たま家に遊びに来てくれるのが、何よりの楽しみでした。カレンとはいずれ一緒に学校に通おうと約束していて、一緒に勉強や鍛錬などをしている仲です。
ルシフェル士官学院。
共和国最大の学舎で、大陸でも最も歴史のある学校の一つ。
入学試験の厳しさも有名で、私とカレンはそのために一生懸命頑張っていました。
そんな日々。
それがある日、崩れました。
「アメリア、お前の婚約結んだからな」
父は酒精で真っ赤になっている顔で、千鳥足のまま帰宅し、私にそう言い放ちました。
「こんやく……ですか?」
聞き返した私に対して、父は机を激しく叩きながら怒鳴る。
「いちいち聞き返すなァ!! お前の結婚相手は、ナイトフォールのところのガキだ!!」
そう吐き捨てると、父が部屋に戻ってしまいました。
呆気に取られていると、何事かと一緒に勉強に来ていたカレンが様子を尋ねに来ました。
事情を話すと、カレンはカラッとした笑顔で、
「ナイトフォール家つったら伯爵家じゃん! 玉の輿を狙っちゃえよ!」
と答えました。
いつもポジティブに考える彼女の態度を見習いたいなと思ってしまいました。
「けどよ」
真剣な顔でカレンが続けました。
「そのナイトフォールのところのヤツがアメリアを傷つけるようなヤツだったら、オレがぶちのめしに行ってやるよ!」
女の子でも惚れてしまいそうな男勝りで素敵な笑顔でした。
だけど……。
私の婚約相手。
ベリアル・ナイトフォールはその悪評が巷に轟くほどの悪人だったのです。
††††††††††††
もしもこの作品を楽しんでいただけたら、【評価☆☆☆】【作品のフォロー】で応援いただければ、続きを書くモチベーションにつながりますので、お願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます