第152話

 ミリアの言う本当にくだらない迷信に付き合わされた日の翌日、俺たちは再びギルドの前に来ていた。

 ……朝、また昨日みたいなことがあったのはもう気にするほどの事では無い……はずだ。

 

「はぁ。……人が多いな。これ、俺達もこの中……と言うか、あの列に並んで誰か職員の前に行かなくちゃならないのか?」


 そして、ギルドの中に入った俺はため息をつきながらミリアにそう聞いた。

 朝だからか、馬鹿みたいに人が多いし、受付の人間の前にも列が出来てるのを見るだけで憂鬱な気分だし、本当に俺は小狐とここで待っていたい。そんな願望を込めながら。


「私だけ……でもいいとは思うけど、念の為二度手間にならないように、一緒に並べばいいじゃない」


「…………はぁ。並ぶか」


 そもそも、試練? を受けなくちゃならないのはギルド側のせいなんだから、そっちで試練の時だけでも優遇するようなシステムを作っとけよ。

 そんな愚痴を内心で吐きながら、俺はミリアと小狐を連れ、列に並んだ。


「今更なんだけどさ」


「どうしたのよ?」


「護衛依頼をするんだよな?」


「そうよ」


「なら、当然護衛対象がいる訳だろ? こんな朝から俺たちはギルドに来たわけだけど……まさか待たされる訳じゃないよな?」


 初めて行ったあの街のもう潰したギルドと同じようにまたギルド側の説明不足か? と思っていると、ミリアは首を振って、口を開いてきた。


「その辺は大丈夫よ。仮に依頼を出してくれるような人が明日までに見つからなかった場合、ギルド側が用意してくれるって昨日説明されたからね」


 ……ギルド側じゃなくてお前の説明不足かよ。

 いや、今回はあの時みたいに不利益を被らされた訳じゃないし、別にいいけどさ。

 列に並んでいる暇な時間の雑談の種くらいにはなったし。



 

 周りに人が大勢いて喋ることが出来ない小狐をちゃんと構ってあげるように頭を撫でつつ、ミリアと雑談に花を咲かせていると、列が進んでいき、やっと俺たちの番になった。


「本日はどのようなご要件でしょうか?」


 綺麗な営業スマイルを見せ、ギルドの受付人はそう聞いてきた。

 俺はミリアの方に視線を向け、ミリアに任せることを示唆した。

 昨日試練の話を取り付けてきたのもミリアだからな。俺よりミリアが話す方が多分スムーズでいいだろうしな。……ミリアは馬鹿だけど、それくらいは別にできるだろうし。


「ランクアップの試練を受けたいのだけど」


「かしこまりました。何ランクへの試練でしょうか?」


「3よ」


「かしこまりました。あちらの一番奥の部屋へどうぞ」


「分かったわ。ありがとう」


 ミリアの礼と共に、俺たちは職員に言われた奥の部屋に向かった。

 あの死ぬほど腹立たしかった受付の人間とは比べ物にらないほどいい対応だったな、と思いながら。

 ……あれと比べたらどんなやつでもいい対応だと思えるんだろうけどな。

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