第149話

 結局俺はあれから小狐が目を覚ますまでミリアに指を咥えられ、舐められ続けた。

 それがどれくらいの時間続けられていたのかはあんまり意識してなかったし、分からない。

 ただ、短くは無かったはずだ。

 

「キュー」


 そして、その辺で買った串焼きを小狐に食べさせつつ、俺たちはギルドに向かっていた。

 相変わらず騎士達はあちこちを走り回っているが、やっぱり焦っている様子は見られない。


 俺は何となく、ギルドに向かって歩みを進めながら、さっきまでミリアに咥えられていた指に視線を向ける。

 ……綺麗に拭いたはずなんだが、まだ感触が残ってるな。


 そんなことを考えつつ、串焼きを食べる小狐を挟むようにして隣を歩いているミリアにこれまた何となく視線を向けた。


「ッ」


 すると、ミリアもちょうどこっちを見ていたのか、目が合った。……が、その瞬間、顔を赤くして、目を逸らされた。

 ……俺がミリアに咥えらていた指を見つめていたからこその反応なんだろうが、なんで今更恥ずかしがってるんだよ。つか、そんなに恥ずかしがるのなら、するなよ。




「じゃ、依頼を取ってきてくれ」


「分かったわ」


 恋人(仮)になったとはいえ、仕事が変わる訳でもなく、ギルドの中に入るなり、俺はそう言った。

 すると、ミリアは直ぐに頷いて、相変わらず人か溢れている依頼が貼り付けてある場所まで行ってくれた。

 便利だなぁ、あいつ。


「どうした?」


 そうして、体を俺に預けてもたれかかってくる小狐の体を支えつつ、ミリアが依頼を持って戻ってくるのを待っていると、手ぶらのミリアが戻ってきた。


 ……俺の身長的にこの人混みじゃあ依頼が残っているのかが分からない。

 まさかとは思うが、もう俺たちのランクで受けられるような依頼が何も無かったなんてことは無いよな?


「私たち、ランクアップの試練を受けなくちゃならないみたい」


 そう思っていると、ミリアの口からは俺の予想とは全く違う言葉が発せられた。

 面倒くさそうだし、普通に嫌なんだけど。


「それ、断って普通に依頼を受けることは出来ないのか?」


「む、無理よ。合格するにしろ、不合格になっちゃうにしろ、ランクアップの試練をちゃんと受けないと依頼は受けられないことになってるのよ」


 なんて面倒臭い仕組みだ。


「……全然気にしてなかった俺が言うのも何だけどさ、遅くないか? ミリアのランクは知らないが、俺たちは一度とそんな試練受けたことないし、多分ランク1だぞ」


「……ラム、冒険者になった時に説明されてないの? ランクは2までは勝手に上がるのよ?」


「……説明されてないな」


「そ、そうなの。で、でも、ランクが2になったら、体の中に入ってる冒険者の証が何となく知らせてくれるはずなんだけど……ラムがあれ、だからかしら」


 あれってのはスライム……つまり、人間じゃないからってことだよな? 

 ミリアに馬鹿にされているなんてことは無いと思うし、そうなんだろう。


「まぁいい。分かった。なら、さっさとその試練を受けたいんだが、どうしたらいい? そもそも、何をしたらいい?」


 仮にその試練が個人で受ける戦闘系の試練だった場合、ミリアのことは見捨てなければならないな、と思いつつ、俺はそう聞いた。

 昔聞いた限りじゃ、ミリアは俺……じゃなくて、スライムをギリギリ倒せるくらいの力しか持ってないみたいだし。


「聞いてきた限り、パーティーでのランク3への試練だから、内容は護衛依頼を達成することよ」


 良かった。

 少なくとも今回はミリアを見捨てなくて良かったみたいだな。

 …………ん? 良かった? ミリアを見捨てなくて済んだことがか?

 ……いや、あれだな。どうせ小狐がいる限り、ミリアをこっちから切り離すことは出来ないんだから、ミリアのランクだけ上げられないみたいな面倒なことにならなくて済んだって意味の良かったって気持ちか。

 話を聞いてる限りじゃ、ミリアも俺たちと一緒のランクっぽいしな。……最初の出会いからしてもそんな感じはしてたけど。

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