第147話

「……小狐は良い。ただ、なんでお前まで隣に寝転んでくるんだよ」


 時間加速スキルでさっさと朝に行こうと思っていたのだが、当たり前かのように小狐だけじゃなく、ミリアまで隣に寝転んできた気配がした俺は、思わず時間加速スキルの効果を止め、そう言った。

 ……最近は何故かそんなこと無いけど、今日もそうとは限らないし、寝起きの理性が無い時に小狐を襲われでもしたら困るから、良く考えたら別にいいんだけどさ。


「あ、あんた、お、起きてたの?」


「そりゃ、俺はスライムだからな。睡眠なんて必要無いんだよ」


「そ、そうなの?」


 ミリアの言葉に黙って頷いた。


「じ、じゃあ、も、もしかしてだけど、あ、あの時も……お、起きてたの?」


「あの時……?」


「ぁぅ、そ、その……」


 なんだよ、その反応。

 マジで何が言いたいんだ?


「わ、分からないなら、いいのよ」


 そんな言い方をされたら、気になるだろう……ん? いや、あれか? こいつ、そうだ。……気にしないように気にしないようにと意識していたから、忘れていたけど、そうだ。

 ……俺、ミリアにキスをされたんだった。……いや、正確にはされたかもしれない、なんだけどさ。

 ……ミリアはあの時俺が寝てたと思ってたんだもんな。


「ね、ねぇ、ラム?」


「何だよ」


「……ラムって睡眠が必要無いだけで、別に眠れないわけじゃないのよね?」


「……」


 多分だけど、眠れないと思う。

 スライムに転生してから、眠ろうとしたことがないから分からないけど、感覚的に俺はもう眠ることが出来ないってことが分かるんだよ。


「な、何よその無言……や、やっぱり、き、気づいてたの?」


「だから何の話だよ」


 俺は惚けることにした。

 何度も言うが、あれがキスだったと確定した訳じゃないんだからな。


「……そ、そう。分からないのなら、いいわ」


 そう言いつつ、ミリアは俺の腕に抱きついてきた。

 ……だから、そんな体勢になって石は大丈夫なのかよ。……別にミリアが大丈夫なのなら、いいんだけどさ。


「そういえば、今更なんだけどさ」


「な、何よ」


「今日の朝、お前、理性があったよな?」


「……な、無かったわよ」


「……今は仮とはいえ、付き合ってるんだ。別に怒るつもりは無いから、正直に言え」


 俺がそう言うと、もうほぼ確信してたことではあったけど、ミリアはゆっくりと気まずそうにしつつ頷いてくれた。


「まぁ、だろうな」


「……あ、明日の朝も、やってもいい?」


「は? ……ミリアはしたいのか?」


「し、したい、わよ」


 暗視スキルがあるからこそ、顔を真っ赤にしてそう言ってくるミリアの顔がよく見えた。

 こいつは特殊性癖の持ち主か何かなのか?

 だってこれ、俺の指を舐めて、血が出るくらいに噛みつきたいって事だろ?

 

「……まぁ、好きにしたらいいんじゃないか?」


「う、うん。ありがとう、ラム」


 ……別に今のは許可を出した訳じゃないんだが……なんだろうな。ちょっとだけ……そう、本当にちょっとだけだけど、ミリアのことが可愛いと思えてきたわ。

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