第146話

「…………疲れた」


 風呂から一足先に上がった俺は、呟くようにそう言った。

 ……基本的に独り言なんて呟くタイプでは無いんだが、今回は仕方の無いことだと思う。

 ミリアや小狐から俺の下半身の状態をバレないようにしないとだったし、ミリアが対応してくれたとはいえ、小狐がこっちに近づいてこないように気にかけてなくちゃならなかったし、本当に疲れたんだよ。


 ……まぁ、今考えると、小狐はともかくとして、別にミリアには下半身の状態のことがバレても大丈夫だったかもしれないし、無駄な苦労だった気がしなくもない。……絶対調子には乗ってただろうけど。……調子に乗ってただろうことを考えると、この苦労は無駄じゃなかったのか。

 ……別にどうでもいいか。


 そんなことを思いつつ、宿の窓から外を見る。

 すると、またカロンが居なくなったからか、騎士達が慌ただしく走っているのがよく見えた。

 もうどれだけ探してもカロンなんて居ないんだけどなぁ。


 まだあの父親はいつもの事とでも思ってるんだろうな。

 その証拠に、今思うと窓から見える騎士達もあんまり焦ってるような様子は見えないし、形だけ探してる感じを見せてるだけなんだろうな。

 

「ラム、何見てるの?」


「キュー?」


 そんなことを思っていると、ミリアと小狐も風呂を上がってきたのか、そんな声が背後から聞こえてきた。


「ちょっと外の様子を見てただけだよ」


「何かあるの?」


「別に何も無い。ただ、本当になんとなく見てただけだ」


 ミリアに全部話したとは言っても、強奪スキルのことと今日権力者の息子であるカロンを殺したことは話してないから、俺は誤魔化すようにそう言った。

 強奪スキルの方はともかとして、別にカロンを殺したことに関しては別にバレてもいいんだけど、なんで殺したのかって話になったらちょっとだけ面倒だったからな。だから、それに関しての話はしなかったんだ。


「そうなの? ……なら、早速なんだけど、小狐ちゃん」


「キュー?」


「そ、その、今日だけでいいから、別の部屋で一人で寝ることって出来ない?」


 俺が内心でそんなことを思っていると、ミリアがそんなことを小狐に聞いていた。

 こいつ、冗談だろう? いくらなんでも、直球すぎるし、早すぎるだろう。

 ……そんなに俺とそういうことがしたいのか?


「キューっ!」


 ミリアの言葉に、小狐は「絶対に嫌!」というような感じでミリアに抱きついていた。

 良かった……でいいんだよな? ……良いはず、なんだけど、なんだ? この感情。……まさか俺はミリアとそういうことをしたいと望んでいるのか? ……無い。そんな訳ない。

 事実、ミリアの体型は全然俺の好みじゃないし、それ以前に、俺がミリアを好きになる要素ってどこだよって話だ。有り得るはずがない。……一応、強いて言うなら顔は可愛いと思うし、顔だけど……無いな。うん。無い。


「べ、別に私が小狐ちゃんのことを嫌いってわけじゃないのよ? で、でも、一日だけ! 一日だけでいいからさ、だ、ダメ?」


「キュー!」


 嫌だー! みたいな鳴き声を上げ、小狐は俺に良くしてくるようにミリアの頬に頬ずりをしていた。

 

 そんな様子を無視して、俺はベッドに一人寝転んだ。

 そしてそのまま、目を閉じた。

 別に眠れる訳じゃないけど、どうせ小狐はミリアの提案を断ることは分かったし、さっさと時間加速で明日の朝まで時間を早めよう。

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