第139話

 デートを始めよう。

 そう言ったはいいものの、俺はこの街のことなんて全然知らないし、どこに行けばいいんだろうな。

 ……好きな相手ならともかく、別に好きでもないどころか、普通に殺そうとしている相手とのデートの行き場所を考えるなんて、苦痛でしかねぇよ。

 これがせめてミリアならまだ……いや、なんでここでミリアが出てくるんだよ。……つか、ミリアでも嫌だわ。


「ラムお姉さん、どこに向かってるんですか?」


「んー、着くまで秘密かな。あっ、ここを通ったら近道になるんだけど、どうする? 昨日みたいに変な人たちに絡まれるかもだけど、私は強いから、カロン君に傷一つ付けさせないって約束するよ」


 路地裏に視線を向けながら、俺はそう言った。

 最初は本当にデートをする気だったんだけど、色々と面倒になってきたからな。

 まぁ、いくらなんでもそこまで馬鹿じゃないと思うし、これから何処に行って何をするかを​─​─


「じゃあ、お願いします。……僕はラムお姉さんを信じてますから」


 ​──考えなくても良くなったな。

 え? こいつ、本当にめちゃくちゃ馬鹿じゃないのか?

 ……まぁいいか。

 これでデートのことなんて考えなくて良くなったと考えれば良かったと思おう。

 スキルも手に入るしな。……ユニークスキルを奪えるかの確認なんてしてないし、確証は無いが。


 ……仮に奪うことが出来なかったら、俺はなんの意味も無くただ権力者の子供を殺しただけになってしまうけど、城に入ったり、下っ端(多分)とはいえ、騎士の実力を見れたことを考えれば、何も得るものが無かった訳でもないし、スキルを奪えなかったら奪えなかったでもまぁいいだろう。

 もちろん、奪えるに超したことはないんだけどな。


「あっ、ご、ごめん」


 そして、路地裏の奥までカロンを連れてやってきた俺は躓いた振りをして、カロンの体に触れた。

 こいつの持っているスキルが変身スキルだけとは限らないからな。


(強奪!)


【個体名ソティリス・カロンからユニークスキル、変身を強奪に成功しました】


 へぇ、ユニークスキルもちゃんと奪えるんだな。

 

(強奪!)


 そのことに内心で笑みを浮かべながらも、俺はもう一度強奪スキルを使った。


【強奪できるスキルを確認出来ませんでした】


 変身しか持ってないのか。

 まぁ、変身だけで充分嬉しいし、別にいいか。


「えっ? あれ?」


 そんなことを思っていると、カロンはいきなり変身スキルの効果が切れたことにびっくりしている様子だった。

 

「がふっ」


 俺はそんなことお構い無しといった感じにカロンの腹を蹴りつけた。

 

「ら、ラムお姉さん?」


 俺の蹴りを食らったカロンは胃から色々と何かを吐き出しつつ、スキルの効果が切れたことよりも困惑した様子で、立っていられなくなったのか、尻もちをつきながら俺の事を呼んできた。

 

 俺はそれに答えることなく、今度は顔を蹴りつけた。


「い、痛い……な、なんで……」


「ま、あれだな。会ったばかりの人間をそんなに簡単に信じるなって話だ」


 まぁ、俺は人間じゃなくてスライムなんだけどな。


「もう意味無いだろうけど」


 涙を流していることを無視して、呟くようにそう言い、俺はそのまま今度は絶対にこいつが死ぬだろうという力で顔を蹴った。

 そして、カロンは顔が潰れて、死んだ。


 さて、一応、服も脱がしておくか。

 着ている服でバレる可能性はあるもんな。

 

(ファイヤーボール)


 そして、服を脱がした俺は、服を燃やし、ついでにカロンの体も燃やしておいた。

 服を脱がす途中、金貨5枚がポケットに直接入ってたから、それは当然貰っておいた。

 これなら多分バレないだろ。

 ファイヤーボールのレベルが最大じゃないからか、体とか服も全部を燃やし尽くせたわけじゃないし、時間をかけたらバレるかもだけど、俺に辿り着くとは思えないし、別にそれはそれで問題は無い。


 もう後処理も含めて終わったことだし、こいつのことはいいや。

 それより、奪った変身スキルを早速使ってみよう。

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