第138話

「お、お待たせしました」


 宿を出て、カロンと出会ったところまで辿り着いた俺は、少しだけ迷ったけど、直ぐに噴水を発見することが出来、噴水の前で特に何かをするでもなく立ち尽くしていると、カロン……では無い全然知らない人からそう声を掛けられた。

 ……まぁ、多分だけど、変身スキルを使っているカロンだとは思う。


「……カロン君?」


「あっ、この姿じゃ分かりずらいですよね。は、はい。そうです。僕です」


 オレオレ詐欺ならぬボクボク詐欺なんてことは考慮しないから、本当にこいつはカロンなんだろう。


 それで、出会えたはいいものの、どうやって人気の無いところに誘導しようかな。

 スキルを奪うだけなら別に今すぐにでも適当な理由で体に触れたらいいだけなんだけど……カロンが次にスキルを使おうとした時、当然なんでいきなりスキルが使えなくなったんだ? って疑問が湧いて出てくるだろうし、いくらカロンからの好感度が高くても、俺が疑われると思う。

 だからこそ、こいつを殺すことはもう確定事項なんだが……問題はどこで殺すか、だよな。

 そもそも、死体をどうするかって問題も……いや、死体はその原型が分からないくらいにボコボコにして、ファイヤーボールで燃やしてやれば何とかなるか?


 なら、普通に路地裏で殺せばいいか。

 カロンと分かる死体ならともかく、カロンだとさえバレなければその辺の子供が殺された程度にしか思われないだろうし、そこまでの問題にはならないだろう。……多分。


 ……で、最初の問題に話を戻すんだけど、どうやって人気の無いところにこいつを誘導しようかな。

 結局殺す場所を決めたって、問題はそこだよな。

 いくらこいつが馬鹿でも、ノコノコと路地裏にまで着いてくるとは思えないからな。


「ちゃんと誰にも言わずに来た? ……もしも誰かに言ってたりしたら、私が怒られちゃいそうだからね」


「は、はい。ちゃんと誰にも言わずに来ましたよ」


「良かった」


 今の返答を聞いて、やっぱり路地裏にも来てくれるんじゃないか? という考えが浮かんだけど、もしも怪しまれでもしたらあんな気持ちの悪い演技までした苦労が全部無駄になってしまうから、ゆっくりと方法を考えることにした。

 幸い、デート(笑)は今から始まるのであって、まだまだ時間はあるからな。

 

「それより、カロン君」


「は、はい、なんですか?」


「変身は解かない……というか、解けないってことでいいんだよね?」


「……はい。僕がここにいるって知られるのはラムお姉さんからしても不味いと思うので、解けないです。……ごめんなさい」


 そうだな。

 明日には生きていないやつと一緒に居ただなんて目撃情報が出るのは困るから、良かったよ。

 もしもカロンが変身を解くなんて言っていた場合、強硬手段に出なくちゃならなくなってたところだ。

 俺が昨日誘拐されかかっていたのに、誰も彼もが見て見ぬふりをしていたくらいだし、それでも大丈夫な可能性はあるけど、出来れば安全に行きたいからな。


「ううん。謝らないで。仕方ないよ。むしろ私のわがままに付き合ってくれてありがとね?」


「い、いえ、ぜ、全然大丈夫ですよ」


「そう? なら、早速だけど、デート、始めよっか」


「は、はい」

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