第135話

 決闘の開始の合図と共に、騎士は木剣を構えつつまだ動いていない俺の方に踏み込んできた。


「……」


 お互い言葉は無い。

 ……ただ、俺はあの騎士が思っているであろう事が手に取るように分かった。

 大方自分の速度に反応すらできてない俺の事を舐めてるって感じだろう。

 実際には表情から何となくの思想を読むくらいに余裕があるんだけどな。

 ……いや、だってさ、めっちゃおっそいし。

 これ、大丈夫か? 手加減するのが難しそうなんだけど。

 ……良し、木剣なんて使ったらマジで殺しちゃいそうだから、素手で行こう。

 

「ッ」


 そう思いつつも、直ぐに終わらせたら色々と面倒なことになりそうだから、俺は何とか間一髪、といった風に見えるようにして相手の騎士の木剣を避けた。

 俺にはあんまりよく分からんけど、多分、型に習った剣技なんだと思う。


 ……避けるだけじゃ不味いよな。

 俺の方も木剣で打ち合わないと、色んな意味で怪しまれそう……ではあるけど、下手に俺のレベルで斬り合おうなんてしようものなら、あの立派? な鎧を思いっきり凹ませた上で殺してしまいそうなんだよな。

 ……斬るんじゃなく、単純に攻撃を剣で受ければ問題ないか?


「ふっ」


 そう思い、今度は相手の攻撃を避けるんじゃなく、さっき渡された木剣で相手の攻撃をちゃんと受けた。……はずなのに、その瞬間、相手の騎士が勝ちを確信したような笑みを浮かべたかと思うと同時に俺の木剣が粉々になって壊れた。


「なっ!?」


「それが私のスキル、武器破壊だ」


 スキル……なるほど。確かに、どう考えてもそんなに力は入ってなかったと思うし、そもそもの話、力ずくで壊したのならあんな壊れ方はしないよな。

 俺に対してドヤ顔を晒してきている騎士の顔を眺めながら、俺はそんなことを思った。

 いや、普通なら焦る場面なのかもだけど、別に武器が壊れたら負けだなんてルールは伝えられてなかったし、目の前の騎士だって俺が降伏をしないのを確認したからか、そのまま次の攻撃に移ろうと行動を開始し出してるからな。

 ……まぁ、降伏しないのを確認したと言うより、最初から俺を痛め付ける気で武器を破壊したあとはそのまま攻撃に移ろうとしてたのかもしれないけどな。


 つうか、武器破壊か。

 ……弱いくせに良いスキルを持ってるな、こいつ。

 まぁ、流石に今は奪ったりはしないけど。

 この決闘の後にスキルを使えなくなった、だなんてことになったらどう考えても最初に怪しまれるのは部外者である俺だしな。

 ……カロンの極上のスキルの存在を知らなかったら、何とかして奪おうとしてたかも? と思うくらいには結構魅力的なスキルだと思うけど。汎用性は少なそうだけど、普通に良いスキルであることは間違いないと思うし。


 それより、騎士達……いや、騎士達だけじゃなく、この王城にいる奴らはもしかしてだけど、みんながみんな何かしらのスキルを持ってたりするのかね。

 ……いつか俺が親狐……はちょっと……いや、かなりハードルが高いから置いておくとして、ゼツくらい強くなったら、この王城に攻め入るっていうのも悪くは無いかもな。

 

「これで終わりだっ!」


 そうして、色々と考えていると、そんな声が聞こえてきた。

 あぁ、そうだ。

 俺、今決闘中なんだったか。

 ……はぁ。どうやって終わらせるか。

 体術スキルを使って上手いことやるか。


「はっ!」


 人の目もある事だからと何となくそれっぽい声を出しつつ、手加減を忘れずに素早く手のひらを騎士の鎧に向かって突き出した。

 すると、俺の手加減が上手くなったのか騎士の身につけている鎧は俺が思っているよりも頑丈だったのかは分からないけど、鎧が壊れることはなく、その騎士は木剣を落としながら後方に転がっていった。


 騎士が転がっていった先には土煙が出ている。

 仮にも騎士だ。

 反撃が来るのを警戒……まぁ、うん。一応警戒してたんだけど、いつまで待っても騎士が反撃してくる様子はなく、土煙が晴れてきてしまった。

 そして、そこに見えた光景は完全に意識を失ってしまっている騎士の姿だった。

 ……当たり所でも悪かったのかね。

 

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