第126話

「ば、化け──」


 今、俺の目の前には五人の男が腹に穴を開けたり、顔面の原型が留めていなかったりしながら、最初に倒れた……死んだ一人を除いて、全員が全員何かに絶望、恐怖したような雰囲気を纏って倒れていた。


 なんでこんなことになっているのかと言うと、理由としては単純で、街を歩いている途中、いきなり体を横に引っ張られて、裏路地に連れていかれ、誘拐されかけたからだ。

 完全に無警戒で油断していたとはいえ、当然俺は完全に不意をつかれた形だったし、相手はかなりの実力者なのかと思って結構本気で相手したんだが、結果は目の前に転がっている通りでめちゃくちゃ弱かった。


 それ自体はいいんだ。

 ただ、納得出来ない点がある。

 確かに油断していたとはいえ、なんでこんな弱い奴らに俺は不意をつかれたんだ? って話だよ。

 少し前までだったのなら、街中であってももっとちゃんと気を引き締めないとな、で終わる話だったが、今の俺には(小)が付くとはいえ、危機察知という便利なスキルがあるはずだ。

 

 一瞬だけ人間から奪ったスキルだし、魔物には使えないスキルだったりするのか? なんて考えも浮かんだけど、直ぐに馬鹿馬鹿しいと俺はそれを否定した。

 だって、実際に発動したことがあるんだから、こんな馬鹿げた考えは無いだろう。


 ……だから、単純に考察するのならば、こいつらが俺にとって危機にはなり得ない存在だったからなんだろうけど……そう考えると、あの時危機察知が発動した時に感じた視線の持ち主は何者だったんだ? という新しい疑問が生まれてきてしまう。

 ……俺よりも強いやつがあの街に居たということか? 少なくとも、冒険者では無い。

 冒険者の最強はあの二人のはずだからだ。


 ……俺に話を聞きに来ていた騎士達の関係者か? ……タイミング的に、ありえない話ではないはずだ。

 完璧だったと思ってたんだが、どこかボロが出てたってことなのか?

 ……そもそも、危機察知(小)のスキルはどこまでの危機を俺に知らせてくれるんだろうな。

 

 例えば、あの時の視線の持ち主が騎士と繋がっていたとする。

 その場合当然ながら自動的に領主とも繋がっているということになるだろう。

 領主へ俺の情報が伝わり、その領主から更に俺の情報がどこかへ伝わるのも危機といえば危機なんだが……流石に考えすぎか。


 情報が少なすぎて、答えに辿り着ける気がしないな。

 やっぱりあの時、多少の危険を冒してでも視線の持ち主を探すべきだったかな。

 ……まぁ、過去のことをどうこう言っても仕方ないか。悪い方向に行ってた可能性だってあるし、考えないようにしよう。


 それより、今はこの目の前に転がっている死体達をどうするのかって話だよな。

 ……二人目辺りを殺したくらいで「あれ? こいつら本当に強いのか?」って疑問は確かにあったけど、この中の一人だけが強い可能性だってあったし、油断をしなかった結果なんだが、失敗したな。

 ……案外ここでも裏組織の連中っていうのが何とかしてくれたりしないかな? あの街の中では初めて人を殺した時のようにさ。


「はぁ」


 幸いここに人気は無いし、正義感のある奴が俺を誘拐犯から助けに来る様子もない。

 さっさと離れるか。

 

「……」


 そう思い、死体達に強奪スキルを発動させ、何もスキルを持っていなかったことを確認した後、俺がここから離れようと足を動かそうとした瞬間、ちょうど俺のいる場所から死角になっている場所より小石のような物が転がる音が聞こえてきた。

 ……誰かいるな。

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