第127話

 幸いここに人気は無いし、正義感のある奴が俺を誘拐犯から助けに来る様子もない。

 さっさと離れるか。

 

「……」


 そう思い、死体達に強奪スキルを発動させ、何もスキルを持っていなかったことを確認した後、俺がここから離れようと足を動かそうとした瞬間、ちょうど俺のいる場所から死角になっている場所より小石のような物が転がる音が聞こえてきた。

 ……誰かいるな。


 そのまま足を止めることなく一旦その場から離れた俺は、隠密スキルと透明化スキルを発動させ、さっきの場所……まだ死体が転がっている場所に戻ってきた。

 そしてそのまま、小石のようなものが転がる音がした方向を覗き込んだ。


 すると、そこには目に涙を留め、両手で口を抑えている灰色の髪で黒い瞳を持った8歳か9歳くらいの男の子の姿があった。

 子供とはいえ目撃者だ。

 だからこそ、ただの子供であったのなら、俺は直ぐに目の前の音を殺しているのであろう子供を殺していただろう。

 ただ、こいつの身なりがこいつはただの子供じゃないということを主張してくる。

 

 顔を隠すものがあったのなら、接触してみても良かったんだが、生憎ともう顔を隠せるものは消えてしまって持ってないからな。


 ……どうせ見られてるっぽいし、話しかけてみるか? そうだな。そこで殺すかどうかを決めよう。


「こんにちは」


 なるべく有効的にいこうと思い、二つのスキルをこの子供の視覚外で解除した俺は、笑顔でそう声をかけた。


「んっ!? ひ、ひぎゃぁぁぁぁぁ​」


 ……のだが、何故か瞳で留めていた涙はボロボロと零れ落ち、そんな大絶叫を上げられてしまった。


 ……失礼じゃないか?

 正直未だに納得出来てないし、不満ではあるんだけど、俺の顔ってかなり可愛いよりで女の子みたいだから、それも相まって有効的に話せると思ったんだがな。


 いや、まぁ分かってるぞ?

 こいつは俺のことを殺人犯だと思っているし、当たり前の反応と言われればその通りなんだが……やっぱり失礼じゃないか?

 ……ま、どうでもいいか。

 何となく予想してたし、なんなら期待通りですらあったわ。

 魔物になっても、こういう悪戯心って残るもんなんだな。

 ……最近、恋心も残ってるんじゃないかって疑問が……いや、これはいい。今は目の前の子供だ。


「ふむ。何か勘違いをしていないか?」


 明らかに俺を怖がっているこの子供……と言うか少年を落ち着かせる意味も込めて、俺はかなり落ち着いた雰囲気でそう言った。


「か、か、か、勘違い、で、ですか?」


「あぁ、そうだ。あいつらは俺……私を誘拐しようとしてきたのだよ。だから、私はそれから抵抗をしただけさ。……まぁ、少しやりすぎてしまったことは否定できないだろうが、正当防衛というやつだよ」


 せっかく女の子に見えるのなら、全力でそれを利用してやろうと思い、俺は一人称を私に変えた。

 意味があるかは分からないけど、俺は使えるものなら何でも使うタイプだからな。……仮にそれが少しだけコンプレックスなことだったとしてもだ。


「そ、そうなんですか?」


 そして、少年からの返事を聞いた俺は確信した。

 あ、こいつ、ミリア並にチョロいわ。


「うん。ほら、私って一般的に見て可愛いでしょ?」


 ……自分で言っててめちゃくちゃ気持ち悪くて吐きそうだけど、大丈夫。可愛いって言うのは間違ってないはずだ。


「は、はい」


 少年も顔を赤くして、頷いてくれた。

 ほらな?

 ……まぁ、それでも俺はかっこいい方が良かったけどな!

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