第124話
「あ、あんた、すっごくいっぱい食べるわね」
ミリアが目を見開き、肉を頬張っている俺に向かって思わずと言った感じにそう言ってきた。
隣では小狐が俺とミリアに一口サイズに切ってもらった肉を俺と同じように口いっぱいにして食っている。
小狐とはいつもの事として、確かに俺はいつもこんなにいっぱい食ってなんかいなかったし、ミリアが驚いているのも分からなくは無い。
「まぁなんだ。気分だよ」
「……気分でそんなにいっぱい食べられるものなの?」
……普通は無理だろうな。
でも、俺人間じゃないし。
後、ミリアの奢りだし。……とはいえ、小狐だけでもいっぱい食べるのに、俺までこれ以上食うのはミリアがいくらなんでも可哀想か。
このままじゃ普通に小狐の報酬分くらい余裕で飛びそうだし、俺はもう今テーブルの上にある分の肉だけでやめとくか。
ま、それでも俺は一円……じゃなく、銅貨一枚も払う気は無いんだけどな。
「ミリアは食べないのか?」
「……私はいいわよ。どうせ食事が生きるために必要な訳じゃないし、あんた達がいっぱい食べてるし」
……俺も生きるために必要な訳じゃないからこそ分かるけど、ミリアだって食べたくないわけじゃないだろうに。
……あれだな。
あの街で小狐と二人っきりで飯を食いに行った時の事を思い出すわ。
俺もあの時はこの世界に来て初めての食事だったのに小狐がいっぱい食うから、少しでも金を節約しないとって理由で全然食えなかったし、今のミリアはあの時の俺と重なるよな。
「……はぁ。ミリア、食うか?」
俺は典型的なクソ野郎だから、自分にはめちゃくちゃ甘い。
そんな俺がミリアに対して自分を重ねてしまったんだ。少しではあるが、ミリアに対しても甘くなるのは仕方の無いことだろう。
だからこそ、俺は一口サイズに切った肉を刺したフォークをミリアの方に手を伸ばして向けてやった。
「え? ……えっ!?」
すると、俺の言っている内容を理解したミリアは顔を真っ赤にしてさっきとは違う意味で驚いていた。
……まぁ、そうだよな。
俺も逆の立場だったらびっくりすると思うぞ。
俺がミリアに肉をあげるとか、普通なら絶対ありえないし。
……とはいえ、なんか仕方ないから分けてやろう、みたいな感じを出してる俺だけど、この肉の金を払うのはミリアなんだから、ミリアが食べるのは当たり前のことなんだよな。
「食わないのか? なら──」
「た、食べるわよ!」
「あそう。なら、早く食えよ。俺の腕が疲れるだろ」
「う、うん……」
ミリアは頷くと同時に、肉を食べてくれた。
未だに顔を赤くして、左耳に手を当てながらミリアは肉を噛んでいた。
なんで顔が赤いんだと思ってたけど、まさか間接キスとかを気にしてる訳では無いよな? ……ん? キス……? って、俺が意識してどうする。
あほらし。
「まだ食うか?」
「う、うん」
まぁそりゃそうだよな。
一口しか食ってないし。
「あそ。なら、後は自分で食え」
俺が食わせてやる理由なんて無いしな。
……最初は、まぁ、何となくだ。
「え……た、食べさせてくれないの?」
「……食べさせて欲しいのか?」
いつもの俺なら「なんで俺がお前に食べさせてやらなくちゃならないんだよ」とか言ってたと思う。
でも、今の俺はミリアに自分を重ねてしまっているし、それ以前に、黄金うさぎから奪ったスキルのおかげでまだ気分が良かった。
「……う、うん。……ラムに、食べさせて欲しい……でしゅ」
噛んだな。
自分の髪色と同じくらいに耳の先まで顔を真っ赤にして、ミリアは涙目になりながらも本当に食べさせて欲しいのか、俺のことを期待したように見つめてきている。
……悔しいけど、もしももう少しミリアが近くにいたのなら、そのまま頭を撫でてたかもしれないな。
「ほら」
「あ、あーん」
ミリアが肉を咀嚼しているのを横目に、俺は小狐の方に視線を向けた。
まだ肉は残ってた。
追加注文が必要かは分からないが、少なくともこっちもまだ大丈夫そうだな。
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