第121話
ミリアに依頼を受けに行って貰ったあと、俺たちは街を出て、近くの森に来ていた。俺たちがこの街に来た方向とは逆の方向にあった森だ。
……一応、森に来る前、依頼を受けてきてくれたミリアは依頼の紙を持ってきた時のように頭を撫でられることを期待しているように見えたけど、当然それは無視している。……正直その時のミリアは飼い主に甘えようとしているのになかなか構って貰えない犬のように見えてしまい、その姿がいじらしくて、思わず俺の手はミリアの頭に持っていかれそうになったけど、なんとか我慢して、その気持ちは心の奥底に封じ込んだ。
「それじゃあ黄金うさぎ? ってのを探してきてくれるか?」
「…………」
何故返事をしない。
「おい、ミリア?」
「えっ? あっ、うん。分かったわ……」
何か言いたそうだな?
……別に嫌がってるって感じじゃないし、まぁいいか。仮に嫌がってたとしても、絶対やらせてたけど。
最初に戦闘は無理だけど、索敵と隠密が得意だって言ってたんだし、当たり前だ。
「……そ、その……行ってくるわ」
「あぁ」
「キュー!」
最後まで何かを言いたそうだったけど、ミリアは結局何かを言ってくることなく、そのまま森の奥に向かっていった。
何だったんだ?
…………まさかとは思うが、頭を撫でなかったことをまだ引きずってるのか? ……はぁ。ずっとあのままだったら普通にうざいし、黄金うさぎっていうのを見つけて帰ってきたら頭くらい撫でてやるか。
「なぁ、小狐」
「キュー?」
俺の言葉に反応した小狐は小さく首を傾げて俺の方に視線を向けてきた。
「今更なんだけどさ、お前ら、昨日結局風呂入ってないよな?」
「キュー!」
すっかり忘れていた、と言った感じに小狐は頷いてきた。
……ミリアも忘れてたのかね。
あれだけ風呂を楽しみにしてるって話だったのに。
……俺が夜の番で寝不足だと思ってたから、気を使って一緒のタイミングで寝てくれたってことなのかね。
「キュー」
……あ、ちょっと待った。
小狐に体を揺らされている俺は、自分がやってしまった過ちに気がついた。
小狐相手だし、別に無言の空間でも平気だったけど、それでも会話くらいはした方がいいかと思い、出した話題だったけど、風呂の話題なんて出してしまえば今みたいに小狐が俺と一緒に風呂に入りたがることなんて今までの感じからして、火を見るよりも明らかだっただろう。
「……機会があったらな」
そう言ってお茶を濁した。
小狐と風呂に入るなんてことになったら、ミリアも一緒に入ることになりそうだし、そもそもの話、俺は小狐と風呂になんて入ったりして、果たして命はあるのだろうか。
小狐は考えるまでもなく女の子だし、スライムとはいえ、人化したら下半身にはあれの感触がある上に中身が男の俺だぞ? 絶対に間違いなんて起こす気は無いとはいえ、この世に絶対は無い。
……ダメだ。想像しただけで俺はスライムのはずなのに体の芯から凍えていくような感覚がする。
もしも親狐を本気で怒らせた場合、死ぬ……とかじゃなく、絶対に殺してもらえはしないだろう。
スキルやゼツのおかげで痛みには耐性がある俺だが、親狐の与える痛みや絶望なんて俺なんかじゃ想像もつかないものだろう。
……やばいな。
こんなことを思っていたら、変にお茶を濁すような真似なんてせず、もう一言でばっさり断った方が良かったんじゃないか? と思えてきてしまった。
今からでも──
「キュー?」
小狐が小さく首を傾げ、俺の方を見つめてきながらそんな鳴き声を上げた。
そこにどんな意味が込めてあるのかは分からない。
ただ、俺は何も言えなかった。
だって、俺には親狐が俺に何を望んでいるのかが分からなかったから。
俺に小狐を絶対に傷つけないで欲しいのか、多少傷つけることになっても一緒に風呂に入ることは許さないと思っているのか……もう何度目になるか分からないけど、なんで俺、自由に生きるはずだったのに、こんなことになってるんだろうな。
「……なんでもないよ」
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