第103話
空から星が消えた。
つまり、明るくなってきたってことだ。
……魔物は出なかったけど、長かったな。
結局、時間加速の力は使わなかったからな。
ミリアと体が触れてるし、ミリアにも影響があることを考えてやった結果だ。
大丈夫だと思ったけど、それで全然寝た気がしない、なんて言われて、足を引っ張られたくないし。
視線を下に向ける。
ミリアが気持ちよさそうに寝ている。
……まぁ、小狐がそろそろ起きてくると思うし、それまでは寝かせておいてやるか。
幸いと言うべきか、俺は足が痺れたりなんてしないからな。
「キュー!」
そうして、相変わらずミリアの目元に優しく手を置いてやりながら、適当に時間が過ぎるのを待っていると、小狐がテントの中からそんな鳴き声を上げながら、ゆっくりと出てきた。
起きたのか。
なら、そろそろこいつも起こすか。
そう思い、ミリアを起こすから、小狐がこっちに来ないようにと手でジェスチャーをしながら、ミリアの体を揺すりだした。
「ミリア、起きろ」
どうせ噛みつかせないと早く理性を取り戻してくれはしないから、腕をミリアの前に最初から差し出していると、案の定と言うべきか、俺の腕はミリアに噛まれた。……が、いつもより弱い気がする。
気のせい……では無いと思うけど、なんでだ?
あんまり長い時間寝てないからか? それとも、誰かが近くにいる状況で眠ったことで何かしらが起こっているのか? ……まぁ、別になんでもいいか。腕に噛み付いてるって事実は変わらないんだし。
「起きたか? 一応言っておくけど、大丈夫だからな?」
そろそろ理性を取り戻す頃だと思った俺は、そう言いながら、ミリアの頭を撫でた。
……最早この作業も慣れてきたな。
「……うん。おはよう、ラム」
良し、起きたなら、さっさと口元に付着した俺の血を拭いて、小狐の為に朝食を用意してやってくれ。
「……」
俺のそんな思いに反して、ミリアは口元を拭かないどころか、俺に抱きついて離れてくれない。
……はぁ。……今日は軽かったとはいえ、朝起きた時に誰かの腕を噛みちぎりそうになってるなんて気持ち悪いだろうし、何も言わないけどさ。
昨日とかもこんな感じだったし、もう慣れたってのもある。
そんなこんなで、かなり落ち着いたのか、俺から離れてくれたミリアが用意してくれた朝食も食べ終え、俺たちはまた進み出した。
今更だし、俺は王都の場所を知らないから何とも言えないんだけど、歩いて王都まで行くってかなり馬鹿げてるんじゃないか?
俺たちは魔物の集団だし、バレる可能性を考えたら仕方ないことなのかもだけどさ。……ミリアがちゃんとそこまで考えて何も言ってきていないのかは知らないけど。
そんなことを思いつつも、何も言わずに歩いていると、村が見えてきた。
チュートリアル村とよく似ている。……いや、よく似ていると言っても、チュートリアル村のように滅んでいる訳では無い。
もしもチュートリアル村が滅んでいなかったら、って話だ。
「あそこで食料を補充していくわよ!」
あ、なるほど。
最初から村を経由していくつもりだったのか。
そうだよな。正確な場所を知らないとはいえ、一気に王都まで歩いていくって考える方が馬鹿だよな。
いくらなんでも、そんなに近いわけが無い。
……なんか、恥ずかしいわ。俺はミリアのことを馬鹿だと言う資格はないのかもしれない。
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