第102話
「……ね、ねぇ、ラムもそろそろ寝た方がいいんじゃないの?」
俺の対面で眠たそうにうとうと、としながら、ミリアがそう言ってきた。
……寝た方がいいのはお前だよ。
アンデッドの癖に睡眠が必要なのには未だに納得がいってないけど、めちゃくちゃ眠そうだし、そういうものなんだろう。
ミリア自体特殊な例っぽいし、そう納得しておこう。
「俺はいいから、お前が寝てこいよ」
「で、でも、私のミスだし……そ、それに、私、目が覚める時に理性を保てなくて近くの人を襲っちゃうから……」
「どうせミリアが起きてたって何にも出来ないだろ」
強いて言うなら、暇つぶしに適当な会話ができるくらいだ。
それなら、寝てもらった方がいいに決まってる。
俺には時間加速のスキルがあるし、ミリアさえ眠ってくれれば一瞬だからな。
「まぁ、小狐を襲われるのは困るし、こっちで寝ろよ。俺の分の毛布を枕にしてくれたらいいから」
一応ミリアの分のテントもちゃんと張ってあるけど、ミリアの目が覚めた時、俺が近くにいない可能性だってあるし、俺の隣を手でポンポンとしながら、そう言った。
襲う対象が俺ならともかく、小狐だった場合、それでもしものことがあったら、連帯責任で俺も殺されるだろうし、これは当然の処置だ。
もちろんだが、小狐とか関係なく、俺個人の意見を言わせてもらうとしたら、普通に嫌だけどな。
そもそもの話、問題無いとはいえ、誰が好き好んで自分の腕を毎朝毎朝噛みちぎられそうになることを良しとするんだって話だ。
これは最早俺がミリアを嫌いだとかそういう次元の話では無いと思う。
「あ、あんたはどうするのよ」
「俺は……あれだ。睡眠を取らなくていいスキルを持ってるから、一日くらい平気だ。だから遠慮せずに寝てくれ。明日、眠いなんて理由で足を引っ張られる方が嫌だからさ」
「……ほ、ほんとにいいの? 私のミス、なのよ?」
「いいから、早く寝ろ」
「う、うん。……あ、ありがとう」
別にミリアの為に言っている訳では無いんだが、否定する理由もないし、特に何も言わずにリュックから俺の分だったはずの毛布と魔物の魔石の力を込めた石、だったか? をミリアが取り出しているのを見守った。
「……?」
毛布を取り出したミリアが俺の隣に来たかと思うと、何故かミリアは俺の膝あたりに毛布を掛けてきた。
いや、なんで俺? さっきちゃんとそれを枕にでも使えって言ったよな?
そんな疑問を頭の中に思い浮かべていると、ミリアは自分の胸あたりにさっき取りだしていた石を置き、そのまま俺の膝あたりを枕にして寝転びだした。
え? 引っぱたかれたいの? こいつ、何俺の事を枕にしようとしてるんだよ。
「こ、これであんたも寒くないでしょ!」
俺が本気で引っぱたいてやろうかやらないかを考えていると、ミリアは顔を赤くしながら、そう言ってきた。暗視スキルのおかげで、その顔が良く見えた。
あ、俺に気を使ったってことなのか? ……んー、それなら、引っぱたくのは勘弁してやるか。
どうせ寒さなんて感じないんだけど、ミリアがこれで少しでも罪悪感を感じずに眠れるのなら、このままでもいいと思うし。
俺としては明日に響かないように少しでも早く寝て欲しいしな。
「そうかもな。一応、礼を言っとくよ」
適当にそんな返事をしつつ、燃えている火が眩しくないように、俺は優しく手をミリアの目元に置いてやった。
瞼を閉じていても、そういうのは眩しいものだって人間時代に経験してるからな。
「……ん、ラム、ありがとう……おやすみ」
……アンデッドの癖に、本当に、随分と暖かいな。
……火のせいか? ……まぁ、どうでもいいか。
それより、こいつ、髪をツインテールに縛ったまま寝やがったぞ。
……はぁ。外しといてやるか。
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