第104話

 村に入って、少しだけ時間が経った。

 俺は今、本当にこんな村になんて入らなければよかったと後悔していた。


「お願いします。どうか、畑を荒らすクレイボアの退治をお願いします」


 その主な原因はこれだ。

 村に入るなり、冒険者だと説明する俺たちを村人の何人かが村長の家に招いてきたかと思うと、いきなり村長を含めて土下座をされ、そんなお願いをされたんだよ。

 どう考えても、面倒事だし、こいつら、助けて欲しい理由を説明するだけで報酬の話が一切無いんだよ。

 もしも話を聞いているのが俺だけだったのなら、考えるまでもなく一瞬で断っていただろうけど、残念ながらここには小狐……はいいとして、ミリアがいるからこそ、俺は口を開けないでいた。


「ミリア、任せる」


 そして、色々と考えた結果、俺はミリアに全て丸投げすることにした。

 ミリアが断ってくれるのなら、全然それで問題は無いし、断ってくれないならくれないで、めちゃくちゃ嫌だけど、受け入れるしかない。

 ……どうせ、小狐がミリアのことを気に入ってしまっている時点で、俺に選択肢なんて無いんだからな。


「な、なんで私なのよ! パーティーリーダーはあんたでしょ!?」


「……じゃあ、ミリアの意見を聞かせてくれ」


「わ、私は……と、取り敢えず、報酬の話をしないとダメなんじゃない? 報酬無しで依頼を請け負ったりしたら、他の冒険者たちに迷惑が掛かりそうだし」


 目の前に土下座をしている村の人たちがいるからか、ミリアは俺の耳元で小さくこしょこしょとそう言ってきた。

 なるほど。

 他の冒険者たちに迷惑が掛かりそう、か。……断るにはちょうどいい理由だな。

 

「私達も冒険者ですから、報酬が何も無しでは、無理ですね」


 そう思った俺は、今更ながらにこの世界に土下座って文化があったんだな、と思いつつ、村の人達に向かってそう言った。

 俺たちみたいな見た目少女ばっかり(俺は多分)の奴らにこんなことを頼むってことはかなり切羽を詰まってるってことだし、もしかしたら、いい条件を……いや、無いな。そんな条件を出せるくらいなら、普通に冒険者に依頼を出せてるだろ。

 まぁ、近くの街のギルドは潰れてるから、もう絶対無理だけど。


「……で、でしたら、報酬として食料をタダで差し上げますので、どうか、お願いします」


「食料って何があるんですか?」


 話を聞く限りじゃクレイボア? とかいう魔物? に畑を荒らされてるみたいだし、そもそもこの村に食料があるのかを疑問に思った俺は、そう聞いた。


「……パンや家畜の肉が多少残っております。……ただ、それを渡してしまえば私たちは​──」


「なら、それで」


「え?」


 俺が思わず反射的にミリアの前だというのに言ってしまった言葉を聞いた村長はそんな間抜けな声を出していた。


 そして、俺は俺で焦っていた。

 ミリアの方に視線を向ける。

 幸いと言うべきか、俺の言葉にミリアは特に何も思っていないようだった。

 ……報酬次第って言ってたし、相手がどんな状況であれ報酬を貰うのは冒険者として当たり前ってことか? それとも、俺がパーティーリーダーらしいから、俺の決定には従うって最初から決めてたからこその反応なのか?

 分からないけど、俺にとっては都合がいいことだし、別にいいか。

 そんなことより、多分だけど同情を誘って報酬をケチろうとした村長とさっさと話をつけよう。

 残念なことに、俺は人の心なんてとっくの前に捨ててるから、依頼の後にこいつらがどうなろうと死ぬほどどうでもいいし、これからどんなことを言われようが、依頼を出すっていうのなら、もちろん報酬は貰うつもりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る