第100話

 ちょうど辺りも暗くなってきたところで、ミリアが言っていた川が見えてきた。


「本当に大丈夫なのか?」


 ミリアは魔物が寄ってくることは無いと自信満々に言っていたけど、実際どうなのかは知らない。

 だからこそ、俺は取り敢えず、頭の中でミリアを弄り倒す準備をしていた。

 

「えぇ、これがあるからね!」


「……なんだ? それ」


 ミリアがまたしてもウザイドヤ顔を俺に向けてきながら、自信満々に背負っていたリュックの中から何か……小さな黒い箱? を取り出した。


「魔道具よ! 魔物を引き寄せなくするね」


「………………一応、念の為聞いておくんだが、アンデッドと狐系の魔物には反応しないんだよな?」


 仮に大丈夫じゃないんだとしても、指定した者達への害は無い魔道具なんだよな? という意図を込めて、俺はそう聞いた。

 まぁ、念の為だ。

 いくらミリアでも、ここまで馬鹿では無いだろう。


「え?」


 ……やめてくれないかな? そのめちゃくちゃ不安になるような「え?」とかいうの。

 冗談だろ? そんなわけないだろ? な?


「……よ、夜の間は私が見張りをするわね」


 俺の思いも虚しく、何も言わずにその魔道具とやらをリュックの中に仕舞って、涙目になりながらそう言ってきた。

 ……どうやら俺もまだまだミリアのことを甘く見ていたらしい。

 はぁ。……俺たち……じゃなく、小狐のことを忘れるのはまだいい。

 ただ、自分自身のことは忘れるなよ。

 元々ミリアも俺と同じように人間だったみたいだし、仕方ないっちゃ仕方ないのかもだけど、そこは適応していかないと。俺みたいにさ。

 

「はぁ」


「ッ、ご、ごめん……」


 俺の溜息を聞いたミリアは、何を思ったか更に泣きそうな顔になり、謝罪をしてきた。

 さっきまでのウザったいドヤ顔と自信満々な感じはどこに行ったんだよ。


「ほら、よしよし。そんな顔すんなよ。ミスくらい誰にでもあるし、気にすんな。俺も見張りは手伝うよ」


 このまま泣かれるのも面倒だから、俺はなるべく優しい声色で頭を撫でながらそう言った。

 ……ミリアにはこの声色を使うことが多いな。ほんと。


「ら、ラムぅ……」


 げっ。

 結局泣いたかと思うと、そのまま俺に抱きついてきやがった。

 それ自体はもう別にいいんだけど、問題は俺の胸に顔をくっつけてきてる事だよ! これ、涙とか、最悪鼻水とか付いてるんじゃないのか!?


「……大丈夫だから、落ち着こうな」


 ため息をつきたいのを何とか我慢して、俺はそう言った。

 本当に、一刻も早く落ち着いて離れて欲しい。

 ……まぁ、どうせ人化しなおしたら綺麗になることは分かってるし、別にいいんだけどさ。……服を貫通して俺の肌に直接濡れた感覚が来てる気がするけど、気のせい、だろ。……そういうことにしておこう。


「……あ、ありがとぉ」


「気にすんな」


 どうせ俺、睡眠とか必要としてないし、あんまり変わらないんだよ。

 だったら、少しでもいざって時のためにミリアの好感度を上げておいても損は無いだろう。

 ……まぁ、こいつは普通にいつも雑に扱われてるのに、パーティーメンバーとして俺のことを好きだ、とか言ってくるから、めちゃくちゃ単純だろうし、必要無いかもしれないけど。

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