第98話

 見えてきた。

 そこには、倒れている男達が五人、まだ生きている男と女が一人ずつ居た。

 そして、それ以外には魔物……たしかあの洞窟でも倒したオークが三体、そいつらの前に立っていた。

 倒れているオークが三体くらい見えるから、一応倒せてないわけじゃないんだろうけど、このままじゃあの二人も普通に殺されるだろうな。


 ただ、かなりゆっくり来たとはいえ、このままじゃ俺が助けるのが間に合ってしまう。

 ……スピードを更に落とすか? ……いや、もうすぐ後ろからミリアが来ているから、それは俺がわざとあいつらを助けなかったんじゃないかと怪しまれるかもしれないから、ダメだ。

 ……もういっその事、俺が超音波で殺してやるか?

 口で音を出さなくちゃならないけど、ミリアは後ろにいるし「大丈夫ですか!?」みたいな声を出しながら超音波を発動してやれば多分バレない。俺が洞窟を出る前の状態でも倒せたオーク程度にも勝てない奴らだし、多分避けてくることもないだろう。……あれは超音波が強すぎることや、俺がスライムだから、相手が敵対してこずに、不意打ちスキルが発動していたっていうのもあるんだろうけど、それを踏まえた上で、大丈夫だと思う。

 ……一つだけ問題を上げるとするのなら、ミリアから見たら、オークに攻撃されていないのに、いきなり倒れたように見えることなんだが、ミリアなら別に疑問に思ったりしないんじゃないか? という思いもある。

 思い切ってやってみるか? ……迷ってても、本当にそろそろ俺がオークやあの人たちの元に辿り着いてしまうし、さっさと決めるべきか。


「大丈夫ですか!?」


 そして、俺は決断をした。

 あの二人を殺す決断を。


「た、助けてく​──」


「た、助けてくださ​──」


(超音波)


 そして、二人を殺した。

 ただ、殺してから思ったことだけど、あの二人や倒れている人間にそこまでの価値があるのか?

 いや、だってさ、オークに殺されるような人間たちだぞ? 少なくともロクな戦闘スキルは持ってないだろ。

 ……完全にミリアがいることで決断を焦らされたな。……言い訳だけどさ。

 まぁいいか。もしかしたら、良いスキルを持ってる可能性だって完全にゼロってわけじゃないし。


「間に合わなかったか」

 

 ミリアが後ろから来ているから、わざとらしくそう言って、俺は死んでいる男の一人から剣を奪い、オークに向かって走り出した。

 そして、直ぐにオーク三体の首を切った。

 レベル差があるからか、余裕だった。


「ら、ラム! 大丈夫?」


「平気だ。この人たちは間に合わなかったけどな」


「う、うん。残念だったわね」


 ミリアがなんとも言えない表情でそう言ってきた。

 その表情に少しだけ違和感を覚えたけど、特に何かを言うことはしなかった。

 違和感を覚えただけで、どうでもいいし。


「あぁ、そうだな」


 ……? そういえば、違和感といえば、なんでミリアは俺の後ろを走ってたんだ?

 こいつ、確か最初に得意なことを聞いた時に隠密と索敵が得意だって言ってたよな? 隠密は今はともかくとして、索敵が得意なのなら、ある程度スピードだってあると思うし、俺よりも前に行って様子を見ることくらい出来たんじゃ……いや、逆に言えば、様子を見ることくらいしかできないから、か。

 戦闘は出来ないって言ってたしな。

 正確には、俺(スライム)を倒すことくらいは出来るらしいけど。


 そんなことを思いつつ、俺は倒れている人間の死体たちに触れ、強奪スキルを発動させていった。


【強奪できるスキルを確認出来ませんでした】


【強奪できるスキルを確認出来ませんでした】


【強奪できるスキルを確認出来ませんでした】


【強奪できるスキルを確認出来ませんでした】


【強奪できるスキルを確認出来ませんでした】


【強奪できるスキルを確認出来ませんでした】


 強奪スキルを発動させていないのはあっという間にあと一人……俺が殺したうちの一人、この中じゃ唯一の女性だけになってしまった。

 マジで、頼むぞ? もうこの際何でもいいから、何かしらのスキルを持っててくれ。

 正直、オークの方は洞窟にいた時にいっぱい奪ってきてるから、あんまり期待できないんだよ! だから、お前だけなんだよ!

 そんな願いを込め、俺は強奪スキルを発動させた。

 

(強奪!)


【個体名ヒルダからスキル、身代わりを強奪に成功しました】


 おっ! スキルを奪えたぞ!

 ……ただ、スキル名だけを聞くと、もう既に持ってるスキルの囮とかと同じような気がするんだけど、どうなんだろうな。

 忍者とかが使う身代わりの術みたいな感じだったりするのだろうか。

 それなら、普通に便利か。

 

「さっきからあんた、何してるのよ」


 そうしていると、とうとうミリアに突っ込まれた。

 ……このスキルはまた今度試せばいいか。


「……俺なりの弔い方だよ。気にすんな」


「そうなの? まぁ、終わったのなら、さっさと王都に行きましょ?」


 ……アンデッドになったりするから、死体を処理とかしておかなくていいのか?

 それとも、ミリアもアンデッドだから、仲間を増やそうとしてる? ……まさかな。ミリアが特殊なだけで、他のアンデッドはあんな感じに人間みたいな感じでは無いだろうし、増やしたところでなんの意味も無いだろ。


 まぁいいや。

 ミリアが忘れてるだけでも、そもそもその必要が無いだけなんだとしても、面倒なことに時間を費やさなくていいのなら、なんでもいい。

 ミリアの言う通り、さっさと行こう。

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