第97話

「よし。それじゃあ、街を出るか」


 宿を出て、三人で朝食を食べた後、俺は二人に向かってそう言った。

 昨日以降視線は今も尚感じてはいないとはいえ、やっぱりまだ安心は出来ないし、さっさと街は出ておきたいからな。


「……ミリア、先歩いてくれるか?」


 と思いつつも、俺は王都の場所なんて知らないし、俺が先頭を歩く訳にはいかないから、ミリアに向かってそう言った。

 かなり無理やりだけど、正直に王都の場所を聞く方が色々と怪しまれるかもだし、これでいいはずだ。だって、相手はミリアだし。


「な、なんでよ! 別に一緒に歩けばいいじゃない」


「え? あ、あぁ、そうだな。別に一緒に歩けばいいか」


 先に歩いてくれといっても、俺は普通に一緒に歩くつもりだったんだけど、ミリアの認識ではそうじゃなかったみたいだ。

 こいつ、やっぱりどっかズレてるよな、と思いながらも、まぁ、俺が王都の場所を知らないことを感ずく様子も無いし、余計なことを何も聞いてこないのなら別になんでもいいかと思い、俺はそれに合わせて頷いておいた。


 王都って言うくらいだし、行ったことが無くても場所くらいは誰でも知ってそうだから、余計なことを聞かれたら不味いと思うしな。

 もしもそのことを聞かれてたら、俺が……と言うか、俺も魔物だということがバレてたかもしれないし。

 ……相手がミリアだから、ただの世間知らずとして認識される可能性もあるけど。




 そんなことを思いつつ、俺はミリア達と一緒に街を出た。

 一応パッと見小狐を真ん中に三人で並んで歩いている感じだけど、それは俺が上手いことミリアの歩く方向に合わせて小狐を連れながら歩いているからだ。


「俺たち以外にも街を出ていく人や馬車が多いな。突然ギルドがいきなり誰かに潰されたせいか?」


「そうなんじゃない? この街に何か思い入れがある人や住処を変えるお金を持っていないような人以外はあんな事件があった街になんて普通長く居たいだなんて思わないでしょ」


「まぁ、そうか」


 お前はその事件を起こした犯人の隣に居るんだけどな、と思いつつ、俺は適当に頷いておいた。

 人間知らない方がいいこともあるっていうしな。……こいつは人間じゃなくてアンデッドだけど。


 と言うか、そんなことより、王都の場所ってこっちなのか。

 俺……俺たちが来た森の方向じゃないかよ。

 もしもあの時、逆側に向かってたら俺と小狐は今頃王都に居たのかね。

 まぁ、そんなもしもは絶対に無かっただろうけどさ。

 俺は俺にとってのチュートリアル村から逃げていった女、子供の向かった方向に街があると予想して、そっちに向かったんだし。


 そんなことを思いながら、横目にミリアのことを見る。

 俺と小狐は手ぶらなのに比べて、ミリアは荷物がいっぱいで重たそうだ。

 だからといって、どうこうする気は無い。最初からそういう話だったし、どれだけ辛そうでも俺はミリアのことなんてどうでもいいし。

 そもそもの話、別にまだ街を出たばかりでミリアも辛そうじゃないし。




 そうして、王都に向かいながら一応小狐も交えて適当な話をしていると、森の中から女性の悲鳴が聞こえてきた。

 ……めちゃくちゃ無視したい。……つか、普通に無視でいいか。

 ミリアが居るから、助けに行かなくちゃならないみたいなことを思ってしまったけど、俺たちの少し前に居た冒険者たち? が悲鳴の方に向かって行ったから、それを言い訳に​──


「だ、誰か助け​っ──」


 言い訳にして無視する予定だったんだけど、恐らく助けに向かったであろう冒険者の声まで聞こえてきたな。

 どういう状況かは知らんが、やられるのなら声を上げずに死ねよ。

 小狐が気に入っているミリアがいる手前、助けに行かない訳にはいかなくなっただろうが。

 ……いや、案外ミリアが見捨てる判断をしてくれるか? ……はぁ。まずはミリアにどうするかを聞いてみるか。


 もしも助けに行くとなった場合は、なるべくゆっくり行こう。

 俺としては被害が大きい方が強奪スキルを発動できる対象が増えて嬉しいし。

 欲を言うのなら、出来れば全滅してて欲しいな。死体に触れる必要があるから、なるべくミリアや小狐以外のやつには見られたくない。

 ミリアの場合は馬鹿だから見られても何かに感ずくようなことは無いだろうけど、ミリアじゃない赤の他人は俺の行動に対してどう思うか分からないもんな。

 もしもの場合は必殺の一言、宗教関連だって言うつもりだけど。

 ……こっちに宗教なんて言葉があるかは知らないけど、神のような崇める対象くらいはいるだろう。

 思考が出来る種族なら、生きている限り、何かに縋りたくなるものだしな。……多分。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る