第89話
「ねぇ、保存食として、これを買っていこうと思うんだけど、ラムはどう思う?」
「え? あー、うん。いいんじゃないか?」
王都に行くことが決定してしまい、俺たちは食料を買いに来ていた。
何度かミリアにそんなことを聞かれたけど、俺の反応はもう全部適当だ。
せっかくの異世界。魔物に転生して、魔物らしく自由に生きていくつもりだったのに、なんでこうなったんだろうな。
小狐の後ろに親狐というとんでもない存在が居るということが判明した時から、もう何度目になるか分からないけど、俺はいつもそんなことを思っている気がする。
ほんと、疫病神だな。
あの時、助けなきゃ良かった。……いや、別に助けたわけじゃなかったんだけどさ。……小狐は勘違いしてるけど。
はぁ。……どれだけ心の中で愚痴を言ったって、何かが変わるわけじゃないんだ。
王都に行くことのメリットでも考えようかな。
王都っていうくらいなんだし、もし無事に入ることが出来たら、この街よりももっといい情報が手に入るだろうな。
後は……こんな街よりも実力者とかが多そうだし、俺たちが魔物だとバレる可能性が……って、これはデメリットか。
……まぁ、とにかく、だ。メリットだってあるんだし、前向きに考えていこう。……うん。
はぁ。もう全部準備はミリアに任せて、俺は別行動を取ろうかな。
どうせ一緒に居たって、特に口を出すことなんて無いだろうし。
……正直な話、食料とか俺はなんでもいいしな。
ミリアがいる手前、食べなくちゃならないんだけど、スライムになった俺からしたら、それは生きるために必要なものでは無く、ただの娯楽でしかないし。
「ミリア、俺は別行動でいいか? 小……そいつのことは頼むからさ」
「えっ? な、なんでよ? 一緒の方が良いじゃない」
良くないから、言ってるんだよ。……気分的にだし、何か本当に一緒の方がいい理由があるのならともかくとして、どうせそんなもの無いだろうしな。
「別に俺が居なくたって街を出る準備くらい出来るだろ」
「か、買ってきた食べ物にあんたが食べられないものがあったらどうするのよ」
「好き嫌いは無いから安心しろ」
「……あ、アレルギーとかは?」
「今まで生きてきた中でそんな経験をしたことは少なくともまだ無いから、平気だ」
妙に食い下がってくるミリアの意見を全て否定する。
もう行ってもいいかな。
「ぱ、パーティーメンバーなんだから、そういうことは協力してやらないとダメなのよ!」
そう思い、もう行こうとしたところで、後ろからミリアのそんな声が聞こえてきた。
……そういうことを言われると、ちょっとだけ思うところがあるな。
俺個人としては今すぐにでもこんなやつ置いていって街を出たいんだけど、小狐がそれを許してくれないし、少なくともしばらく……小狐がミリアに興味を無くすまでは一緒に行動することになるだろう。……つまり、最低限ミリアからのパーティーメンバーとしての信頼は守っておいた方がいいと思うってことだ。……これからも俺は色々と人間的には完全な犯罪行為を犯すだろうし、その時に最低限の信頼さえ無ければ、真っ先に俺は疑われそうだし、その時のためにな。
……正直、普通ならもうかなり手遅れのような気がするけど、これまで接してきた感じ、ミリアは本当に馬鹿だからな。
普通はもうとっくの前に嫌いになっててもおかしくない俺みたいなやつでも、多分嫌われては無いはずだ。……なんなら、今朝、俺の事をパーティーメンバーとして好きだって言ってきてたし。
今考えても正気を疑うような言葉だが、あれは多分本心だろう。
「……分かった。なら、さっさと選ぶぞ」
「う、うん」
ほら。
……あのままミリアの言葉を無視して一人になってても大丈夫だったんじゃないか? と思えるくらい単純だった。
そして数時間後。
街を出る準備も終わり、借りている部屋のベッドで小狐に胸の上に乗られながら寝転んで目を閉じていると、突然、俺は思い出した。
その瞬間、一気に冷や汗が出てきたような気がした。
……スライムだから、本当に気がしただけだけど、それくらい焦っているってことだ。
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