第88話
「そ、それより! お、王都には結局行かないの?」
色々と考え終わったところで、俺が「王都なんて行かないぞ」みたいなことを言おうとしたところで、ちょうどミリアがそう聞いてきた。
……逆になんで俺が王都に行くぞ、なんて言うと思ってるんだよ。行くわけないだろ。
「……行かねぇよ」
「な、なんでよ!」
……本当に腹立たしいやつだな。
ミリアが言っていたような、全然大丈夫じゃないふざけた根拠で行く気なんて起きるわけがないだろう。
本当に行きたいのなら、せめて何かメリットを提示するべきだ。俺がリスクがあっても行きたい! と思うようなメリットをな。
俺が最初この街に行くと決めた時のような感じだ。
あの時は確か、リスクは感じていたけど、人間やこの世界の情報が手に入ると思って街に行ったんだからな。
……まぁ、結局、多少の情報は手に入ったけど、あの忌々しい受付をしていた人間のせいで情報を集め終わる前に事件を起こしてしまい、さっさと街を去らなくちゃならなくなってしまったんだけどな。
犯人が俺だと辿り着くとは思えないから、一応この街に居ようと思えば居られるんだけど、ミリアがパーティーメンバーになってしまった以上、冒険者なのにギルドの無い街にずっと居る理由とかを聞かれたらちょっと答えずらいからな。
まぁ、それ以外にも、大丈夫だとは思ってるけど、本当に万が一ってこともあるし、逃げておいて損は無いはずだしな。
「俺にとってメリットが無いからだ」
何故か不満気な顔をするミリアに正直にそう言った。
不満なのは俺の方だっていうのに。
「お、美味しい食べ物とか、いっぱいあるわよ?」
「はぁ。……そんなもんで釣られる程俺は食いしん坊でも馬鹿でも無──」
「キュ?」
ミリアとは反対側の隣からそんな鳴き声が聞こえてきた。
その瞬間、俺は一気に血の気の引く思いがした。
「そ、そうよ? この街で食べたものよりも、もっと美味しいものがいっぱいあるわよ? しかもお金なら私が出してあげるのよ?」
こいつ……俺が納得しそうにないからって小狐を味方につけようとしてやがる。
……そうだった。メリットを提示される以外にも小狐が興味を示して王都に行きたがってしまったら、俺から王都に行く以外の選択肢が無くなってしまうんだった。
「……ミリア、お前はなんでそんなに王都に行きたいんだ?」
危機感を感じた俺は、小狐が興味を示さないように話を逸らそうとしたのだが、焦っていたからか特に何も思いつくこともなく、今は取り敢えずなんでもいいと思い直し、そう聞いた。
全然まだ王都の話題ではあるけど、食べ物関連の話に小狐は食いついていたし、せめて食べ物の話題からだけでも逸らさないと、本当にこのまま俺にとってはなんのメリットも無く、ただリクスの為だけに王都に行かされる羽目になりそうだったからな。
「……一度王都の料理を食べてみたかったのよ」
お前もそんな理由なのかよ!
こいつ、ふざけてるのか? 俺をわざと怒らせようとしてるのか? 嫌がらせなのか? お前にとっても命が掛かってるんだぞ!? それなのに、たかだか食べ物の為だけに命を掛けて王都に行くなんて、ふざけてるだろ! そもそもの話、ミリアアンデッドで俺同様食事なんて必要ないと思うし、やっぱりマジで嫌がらせなんじゃないのか?
そう思ってしまうくらいには、本当に腹が立っていた。
ただ、それ以上の苛立ちをこの世界で経験していたからか、すぐに落ち着くことが出来た。
今だけはあの受付の人間に感謝……は無いな。
小狐が俺の服の裾を引っ張ってきた。
「……なんだ?」
「……」
まだ人気のある外だというのに、さっき鳴き声を上げてしまったからか、今度は無言で俺の事を見つめてくる。
聞きたくない。
ただ、聞かないわけにもいかない。
「………………王都に行きたいのか?」
「うん!」
終わった。本当に、終わった。
俺の未来はこの瞬間、王都に行くことに決定した。
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