第82話

 階段を上がった俺は、直ぐにギルドマスターを発見して、殺していた。

 驚くほど簡単だった。

 ……一応少しだけ警戒していたんだけど、ギルドマスターって奴は部屋の端っこの方で体を縮めてビクビクと怯えているだけのおっさんだったからだ。

 影武者とかの可能性も考えたんだけど、俺がこの世界で見てきた中では随分豪華と思えるような服を着ていたから、多分本物だと思う。

 ……と言うか、偽物だったらもう仕方ないとも思っている。

 このギルドに襲撃に来た時は絶対に殺すぞ、って気持ちで来てたんだけど、あの忌々しい受付の人間を殺したことによって本当にかなり気分がスッキリしていたみたいで、ギルドマスターのことはもう割とどうでもよかった。

 正直言ってここまで来たんだから、みたいなついで感覚だったし。


「……帰るか」


 ギルドマスター(多分)からは何も奪えるスキルなんてなかったし、俺はそう呟きながら、隠密と透明化スキルを発動させて、ギルドマスター室? の窓から外に出た。


(地震)


 そして、地竜から奪ったスキルを使った。

 その瞬間、地面が揺れだしたかと思うと、直ぐに亀裂が入り、そのままギルドの建物……だけじゃなく、その周りにあった建物も一緒に崩れていった。

 その際、沼化してあったであろう場所辺りから声にならないような悲鳴が聞こえてきたような気がするけど、それを気にすることなく、俺はそのまま宿に向かって歩き出した。


 案外早く終わったな。

 普段なら絶対にこんなこと思い浮かんだりしないけど、今はあの受付の人間を始末できてめちゃくちゃ気分がいいし、小狐にお土産として串焼きでも買っていってやろうかな。

 小狐も俺と同じあいつの犠牲者だからな。

 

 あ、でも、仮面は外せばいいとしても、服でギルドを襲った犯人と俺が結び付けられるかもしれないし、やめておいた方がいいか。

 小狐に何かを買ってやるのはまた今度にしてやろう。

 ……本当に買うことになるかは分からないけどな。

 あくまで今小狐に何か土産でも買ってやろうって気持ちになったのは気分がいいからだし。




「……キュー?」


 そして、ちゃんと開いたままになっている窓から部屋の中に戻った。

 すると、まだ隠密と透明化スキルを解除していないのに、人化を解いて丸まっていた小狐は俺のいる方向辺りに顔を向けてきたかと思うと、そんな鳴き声を上げながら小首を傾げていた。

 

 それを気にすることなく、俺は窓を閉めてから、隠密と透明化スキルを解除した。

 そして、フードを下ろして、仮面を取った。


「キューっ!」


 その瞬間、小狐が俺の胸に向かって飛び込んできた。

 当然、俺は避けることなく、そんな小狐を優しく受け止めた。

 ……それ、やめてくれないかな。

 受け止めることが出来なかったことを想像するだけで存在しないはずの心臓がキュッとなるんだよ。


「……あ」


「キュー?」


 適当なやつの死体から服を持って返ってくるの、完全に忘れてたな。

 ……今からでも取りに行くか? ……いや、流石にもう騒ぎになってるだろうし、やめておいた方がいいか。

 はぁ。仕方ない。取り敢えず、普通に着替えるか。

 

 そう思い、小狐を優しくベッドの上に置いた俺は、服を脱ぎ、仮面と一緒にまた枕の下に隠した。

 そして、人化を解除してから、また直ぐに人化スキルを使うことによっていつもの服を着た。


「キュー!」


 それを待っていたかのように、小狐はまた俺の胸に向かって飛び込んできた。

 当然、さっきと同じように俺は小狐を受け止めた。


「寝ないのか?」


「キュー」


「……俺と一緒に寝るって言ってるのか?」

 

「キュー!」


 ま、今日くらいは別にいいか。

 内心で悪態をつくことも無く、俺は頷いて小狐を抱き抱えながらベッドに寝転んだ。

 小狐の耳が腕に当たって相変わらず気持ちよかった。

 

「はい、おやすみ」


「キュー♪」

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