第78話
「それじゃあ、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
「キュ!」
夕食を食べ終わって、宿に帰ってきたところで、俺たちはそんなやり取りをし、お互いの部屋に入っていった。
飯を食っている間に明後日に街を出るという話は当然してあり、ミリアにも許可というか、了承は貰ってある。
「おい、馬鹿……じゃない。馬鹿なんて俺は言ってない。そうじゃなくて、くっついて来ないでくれ。昼頃にちゃんと言っておいただろ? 今日の夜、ちょっと外に出てくるってさ」
部屋の扉を閉めるなりいきなりくっついてきた小狐に向かって俺はそう言った。
一瞬反射的に暴言を言いそうになってかなり焦ったけど、多分、大丈夫なはずだ。
……だって今、生きてるし。
「キュー……」
小狐は素直に離れてくれた。
良かった。離れてくれなかったら、無理やり引き離す訳にもいかないし、自分から離れてくれる以外に俺には対処法が無かったから、本当に良かった。
「小狐は眠っててくれていいからな」
「……キュー」
「もしもミリアが部屋に来たら上手いこと誤魔化しておいてくれ。……それじゃあ、行ってくるよ」
喋りながら服を着替えた俺は仮面を顔に着け、小狐に一言言って、隠密スキルを発動させ、そのまま窓から部屋を出た。
そして、出たところで思った。
……まだ早かったんじゃないか? ……いや、だって、ちょうど今のこの時間くらいがみんな依頼から帰ってきたりしてる時間だろうし、めちゃくちゃ人が多いと思うんだけど。
……ま、別にいいか。
少しだけ悩んだ結果、俺が出した結論はそんなものだった。
よく考えたら、それだけいっぱいスキルを奪えるチャンスがあるわけだし、好都合じゃないか、と思ったからだ。
大丈夫だとは思うけど、ポケットに手を突っ込み、背中をわざと猫背にして、中身が俺だと絶対にバレないようにギルドに向かって歩いていると、今更ながらに少しだけ緊張してきた。
ただ、その緊張も一瞬の出来事で直ぐに消えてなくなった。
ゼツに挑んだ時のことを思えば、ギルドを潰すことくらい何でもないと思い直したからだ。
そして、ギルドの前に着いた。
まだギルドの外だけでも人が多くて、ざわざわと騒がしい。……中から聞こえてくる声はもっと騒がしい。
超音波は単体技だから、今この場で使うには適していない。
(透明化、沼化)
ここで透明化するくらいなら最初から透明化してここまで来たら良かったな、と思いつつも、透明になりながら沼化のスキルをここら一帯の地面に使った。
一応、感覚的にギルドの中も沼化できそうな気がしたけど、それをしてしまったら俺までギルドに入った時に動きにくくなってしまうから、やめておいた。
「う、うぉぉ!? な、なんだ!?」
「き、急に足場が!?」
「ど、どうなってるんだ!?」
人間たちの驚いたような声があちこちから聞こえてくる。
良し、これで少なくとも外にいたやつらは簡単には逃げられなくなったな。
……一応、今の俺の一番の目的はギルドを潰すことであってスキルを奪うことじゃないから、逃げてくれても良かったには良かったんだけど、人が減った方が復旧作業が遅くなるだろうし、損は無いから、これでも問題は無いはずだ。
「さ、さっきあの辺りでいきなり消え──ガッ」
(超音波!)
危ない。隠密スキルを使ってたからバレてないと思ってたんだが、俺が透明化したところを見てたやつが居たみたいだったから、直ぐにそいつを始末した。
あいつの死体の場所は絶対に覚えておこう。
隠密を見破れるスキルを持ってたってことだろうからな。ちゃんと奪っておかないと。
(ウォーター……いや、毒生成、糸生成)
地竜を倒した時のウォーターボールと毒生成のコンボ技を使おうと思ったのだが、人間の体になった今なら糸生成でそれをする方が便利なのではないかと思い、そっちを試してみることにした。
手や腕を覆うように毒が体の中から出てきたかと思うと、足以外の全ての指先から毒が付着した糸が出てきた。
それを伸ばしていき、沼化した地面に足を取られて身動きができなくなっている人間たちの手や首に巻き付けていく。
上半身だけ暴れて、糸で触れることしか出来ない奴もいたけど、スキルレベルが10の毒生成スキルで作成した毒だったらか、それだけでも直ぐに死んでいった。
沼の端の方に居た奴らは何人か逃げていたけど、それを追う理由も無いし、俺はギルドの中に意識を向ける。
すると、外よりも中の方がうるさかったこともあってか、今ギルドの外で起きたことに気がついている様子は無かった。一応透過スキルも使い中の様子を確認するけど、本当に気がついている様子はなかった。
だったら、今殺した奴らの死体からスキルを奪ってから行くか。
結局のところ、俺はギルドとあの日受付にいた人間、そしてそいつの上司……つまりギルドマスターさえ殺せれば満足だからな。
最悪気が付かれても問題は無いし、ゆっくりでもいいはずだ。
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