第77話
枕の下に隠した服が見えていないかの確認をしてから、俺はミリアに鍵を開けられる前に自分で扉を開いた。
「……おかえり」
「居るのなら、なんで何も言わないのよ。……ただいま、だけど」
「キュー♪」
ミリアは普通に扉を開けるなり少しだけ不満そうな顔をしつつそう言ってきた。
小狐の方は直ぐに部屋の中に入ってきて、俺に抱きついてきたかと思うと、外に漏れないように小さくそんな鳴き声を上げてきた。
「……よしよし」
全く何を言っているのかが分からなかったから、取り敢えず頭を撫でて、誤魔化しておいた。
「で、ミリアは小狐を部屋に送りに来ただけか? それとも、何か用でもあったのか?」
「あ、う、うん。これ、あげるわよ」
そう言って、ミリアは持っていた紙袋から何か肉が挟まったサンドイッチを手渡してきた。
……俺が潔癖症だったらどうするんだよ、ってのは割とどうでもいい話か。別に潔癖症じゃないし。
「……いいのか?」
「別にいいわよ。……その、ついでだっただけだし」
俺から目を逸らして、顔を赤らめながらミリアはそう言ってきた。
……今更なんだけど、こいつ、普通に良い奴なんじゃないのか? ……魔物に……アンデッドになってしまっていることさえ除けば、俺たち……と言うか、俺みたいな奴がいるパーティーなんかに入らないで済んでただろうにな。
「ありがとな。……金、払おうか?」
ミリアのことが好きじゃないこと自体は変わらないけど、ミリアが良い奴なのはめちゃくちゃ伝わってきてたし、俺は思わずそんなことを口走ってしまっていた。
「いらないわよ」
俺がミリアに対してこんな優しさを見せるのなんて絶対に最初で最後だろうに、ミリアはそう言って首を横に振ってきた。
後悔しても知らないぞ?
「そうか。まぁ、なら、ありがたく貰っておく」
俺に食事の必要なんて無いし、必要無かったといえば必要なかったんだけど、食べれない訳じゃないし、味覚がない訳でもないから、ラッキーだったな、と思いつつ、ミリアに貰ったサンドイッチを口の中に入れた。
これが出会ってすぐの頃とかだったら毒か何かを警戒してただろうけど、ミリアがそんなものを仕込むメリットが無いだろうし、普通に嫌いではあるけど、人柄的にそういう面では信頼してるのは確かだったから、なんの警戒もせずに、だ。
「どう? 美味しい?」
「ん、美味いよ」
特に嘘をつく理由もないし、素直にそう言った。
「良かったわ。……それじゃあ、私も部屋に戻るわね。…………そ、その、改めて、私の事を受け入れてくれてありがとう。また夕食の時にね!」
すると、ミリアは恥ずかしそうに少し顔を赤らめ、そう言ってきた。
「あぁ、また後でな」
特にその事に触れることなく、俺は返事をした。ミリアも触れられたくなんてなかっただろうしな。
「小狐」
「キュー?」
「……今日の夜、俺は少し外に出るけど、気にしないでくれよ」
当然と言うべきか、ギルドを潰しに行く予定だ。
もう見た目を隠せるものは手に入ったんだから、行かない理由が無いからな。
「キュー!」
「……いや、俺一人で行くよ。ちょっと危ないかもだからな」
ゼツと戦っていた時は途中まではまだ親狐の存在を知らなかったから、当たり前のように小狐のことを戦力として考えられてたんだけど、今は怖くてそんな考えは出来なかった。
「いいな?」
「…………うん」
素直に頷いてくれて良かったよ。
後は夕食の時にでもミリアに明日……いや、明後日には街を出るって伝えておくか。
明日にしないのは、明日だとタイミングが良すぎてミリアに怪しまれるかなと思ったからだ。……明後日でも割とタイミングがいい事には違いないけど、まだ明日直ぐに出るよりはマシなはずだ。
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