第76話

 宿に戻ってきた。

 ……良し、ミリアと小狐はまだ帰ってきてないみたいだな。

 小狐はともかく、ミリアが帰ってきていたら、この服と仮面を見られる訳にはいかないからな。良かったよ。


 その事に安堵しつつ、そそくさと部屋に戻った俺は、服を着てみようと思ったのだが、今着ている服は脱いだらどうなるのだろう? というシンプルな疑問が今更ながらに浮かんできた。

 だって俺が今着てる服ってスライムの状態から人化した時に出てきた? というか、なんかいきなり着てた服だし、脱いだらどうなるのかが分からない。

 消えるのか、そのまま普通に残るのか。残った場合は一度人化を解き、もう一度人化するとどうなるのか。また新しく服が現れるのか、その時は裸の状態になってしまうのか。

 試しておくか。


 そして、俺は服を脱いだ。

 脱いだ服は消えることなんてなく、普通にそのまま俺の手元に残った。

 残るのか。だったら、後は人化を解いて、改めてもう一度人化のスキルを発動した時にどうなるかだな。


 そんなことを思いつつ、持っていた服を置き、さっき買ったばかりの服に着替えた。

 あの店員が凄いのか、デカすぎず、小さすぎず、服の大きさはピッタリだった。

 フードも被ってみる。

 鏡が無いから分からないけど、俺の要望通りかなり深く被れるフードでいい感じに顔が隠れてると思う。

 

 確かな満足感を胸に抱きつつ、仮面も付けてみた。

 こっちもこっちでいい感じだった。

 ……一つだけ残念な点をあげるとするのなら、この姿を自分で見れないことだな。

 どんな感じかを見ておきたいんだけど、まぁ、多分ちゃんと人目では俺だとバレないくらいには色々と隠せてるだろうし別にいいか。


 ……別にこの姿が見れないことは別にいいんだけど、そろそろ自分の顔くらい見てみたいから、どこかで鏡を買うのもありかもしれないな。

 俺、未だに人化した自分の姿を人伝にしか知らないし。

 ……この世界に鏡とかあるのか知らないけどさ。


 そう思いつつ、確認が出来た俺は、服を脱ぎ始めた。

 早速今日ギルドを潰すとしても、使うのは夜であって今じゃないからな。

 

 このまま人化を解いた時に服がどうなるのかが気にならないと言ったら嘘になるけど、それを試して、もしもこのせっかく買った服が消えたりでもしたらバカバカしすぎるし。

 

 そして、服と仮面を枕の下に隠した俺は、服を着ていない状態で人化を解いた。

 枕に隠した服ではなく、初めて人化した時から何故か着ていた服に視線を向ける。

 ……ベッドの上に置いてあるから、スライムの体じゃ少し視線が低くて見にくいけど、確かに消えてない、な。


(人化)


 ……普通に服を着てるな。

 見た目は俺が初めて人化した時に着てた服と全く同じ見た目だ

 ベッドの上に置いておいたはずの服に目を向ける。

 すると、そこに服は無かった。

 どういう原理……ってのは今更すぎるか。そういうものだと思っておくのが賢い選択肢だろう。

 

 便利だと思うし、全く問題は無いんだが、こうなってくると、別の服を着たまま人化を解除して、もう一度人化した時にどうなるかが更に気になってくるな。

 まぁ、試すとしてもあの服じゃなくて、もっと適当な服を買ってからだな。……あ、いや、別に買う必要は無いか? ギルドを潰すときに殺した人間の服でも奪って、それで実験すればいいだけだわ。


「ラム? 帰ってきてるの? 私達も帰ってきたから、入るわね?」


 そして、また一人の時間を謳歌しようとベッドに寝転んだところで、扉がノックされると同時にそんな声が聞こえてきた。

 ……はぁ。もう帰ってきたのかよ。

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