第75話
俺は今、ずっと背負わされていた重りを下すことに成功していた。
本当に気分が良かった。
ここまで良い気分なのはこの世界に来て初めてかもしれない。
人化のスキルを奪った時の俺の中の感情は親狐への恐怖だったし、あの時は良い気分とか言っている場合じゃなかったから、本当に初めてなんだろう。
何故俺の気分がここまでいいのかと言うと、理由なんて一つしかない。
隣を見る。
そう、いつも居たはずの小狐が今は俺の近くに居ないんだよ。
久しぶりの一人の時間。
素晴らしい開放感だ。
……良い気分すぎて、テンションとか含めて言葉遣いだったりが色々とおかしくなっている気がしなくもないけど、そんなことどうでもいいくらいに今の俺は最高の気分だった。
小狐が俺と離れることを良しとしてくれて本当に良かったよ。
それくらいミリアのことを気に入ってるってことなんだろうか? 仮にそうなんだとしたら、俺のことを用済みと思うくらいにこのままミリアに依存していって欲しいな。
そんなことを思いつつ、いつになくニコニコとした表情で俺は街を歩いていた。
顔を隠せるものを探すために。
そして、フードの付いた服が外からも見える服屋を見つけた。
その瞬間、俺は直ぐに服屋の方に進み出した。
「いらっしゃいませ〜。何をお探しでしょうか?」
店の中に入ると、直ぐに店の人にそう声をかけられた。
……いらっしゃいませは分かるんだけど、何を探してるのかってのはなんだ? ここは服屋じゃないのか? ……服屋だとしたら、そんなこと聞かないもんな。
仮に聞くとしても、せめて「どんな服をお探しでしょうか?」みたいな感じになると思うし。
……顔を隠せるような仮面を探してるとか言ってみるか?
んー、無かった場合、始末しなくちゃならない人間が増えて嫌なんだけど、聞かないことには分からないし、これは仕方ないか。
「黒をベースにした深いフードが付いた服と、出来れば顔を隠せるような仮面みたいなものを探しているんですけど、ありますか?」
「はい、もちろんありますよ。少々お待ちください」
店の人は営業スマイルを俺に見せ、そう言いながら店の奥に消えていった。
……あるのか。
「こちらなどどうでしょうか」
そして、内心で俺が驚いていると、直ぐに店の人が黒い服と目元だけしか隠せなさそうな黒い仮面を持って戻ってきた。
……フードがあるんだから、目元しか隠せないような仮面はちょっと微妙なんだけど、風でフードが捲れてしまった時とかを考えれば、買っておいて損は無いのか。
「買います」
少しだけ服のサイズだったりを確認した後、俺はそう言って持ってきてくれた二つを買った。
「ありがとうございました〜。またのお越しを〜」
「はい。また来ますよ」
次来る時は殺しに、だけど。
早速買った服と仮面を着てみたいんだけど、こんな人気のあるところで着たら中身がバレバレだし、正体を隠そうとしている意味が無くなってしまうから、俺はこのまま宿に戻ることにした。
もちろん、仮面や服を見られないように小さく畳んで、畳んだ服の中に仮面を隠しながら。
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