第74話

 ギルドで適当な依頼を受け、俺たちはまた森に来ていた。

 討伐依頼……ではなく、今回受けた依頼は薬草収集? の依頼だ。

 今回も依頼の紙が色々と貼ってある場所の前には人がいっぱい居たから、ミリアに取ってきてもらって受けた依頼だ。

 ミリアが依頼を取りに行くのは最初からそういう話だったし、俺たち……と言うか、俺が何かを言う前に自分から取りに行ってくれた。


「キュー!」


「あったの?」


 依頼品の薬草を探していると、俺の後ろの方で小狐とミリアのそんなやり取りが聞こえてきた。

 ……小狐が魔物だということがバレてしまったからこそ、人気のないところではもう普通にあいつらは会話……会話? まぁ、ともかく、あんな感じに話をしていた。

 ……一応、ミリアとは多分これから一緒に行動することになるんだし、あいつらの仲が良い分には別に文句なんてないし、どうでもいいんだけどさ。


 そう思いつつ、薬草探しを再開した。

 さっさと依頼で要求された分の薬草を探し出して、顔を隠せる何かを探すことに専念したいからな。

 ミリアに聞いてもいいんだけど、宿で最後にした質問の答え的に、ギルドを潰した時に怪しまれるかもしれないことはなるべくしない方がいいだろうし、それはどうしても見つからなかった時の最終手段だ。


「あ、これか?」


 ギルドからミリアが借りてきてくれた本で見ただけだから、あんまり自信は無いからこそ、俺はそう呟きながら小狐と仲良く何かを話しているミリアの元に向かい、これで合っているのかを聞いた。

 ……ミリアは小狐の言っている言葉を理解出来ているのか? という疑問を飲み込んで。


「えぇ、それで大丈夫よ」


「そうか。ありがとな」


「う、うん!」


 ミリアの返事を聞いた俺は取ってきた薬草を渡しつつ礼を言って、また薬草探しに戻った。

 これだけじゃあまだまだ足りないからな。

 昨日やったような討伐依頼に比べたらかなり面倒だけど、最初に受けた草むしりの依頼を思い出したら全然楽だし、全く苦ではなかった。




 そして、一時間半くらいの時間が経ったところで、依頼品の薬草を集め終えた。

 討伐依頼の方がやっぱり楽だったことは否定しないけど、やっぱりあの草むしりの一件がある以上、肉体的にはもちろんなんだけど、精神的にも全然疲れるようなことは無かった。

 やっぱあれ、一種の拷問だっただろ、普通に。


「キュー♪」


 小狐も心做しか直ぐに依頼が終わったからか嬉しそうだし。

 

「ミリアは依頼が終わったことを報告した後はどうするつもりなんだ?」


「……今更なんだけど、私はアンデッドだからともかくとして、あんたとこの子は朝食とか食べなくて大丈夫だったの? お腹が空いてて、食べに行こうと思ってるのなら、私も一緒に食べに行こうと思ってるけど」


 ……朝食か。

 正直、俺はそんなのを食べている暇があったら顔を隠せるものを探したいな。

 昨日食った飯は確かに美味かったけど、別に食べなくても俺は生きていけるし、今の俺にとって食事なんてただの娯楽でしかないし、少なくとも今では無いと思うんだよ。


「あー、俺は要らないけど、小狐はそうじゃないだろうから、悪いけど、連れて行ってやってくれないか?」


 全くこれっぽっちも悪いだなんて思っていないけど、俺はそう言った。

 あわよくばまた金を出してもらいたいな、と思いつつ。

 ……だって、普通に小狐の為に金を出すとか、嫌だし。


「え? うん。それはいいけど、大丈夫なの?」


「俺は別に大丈夫だ」


「そうなの? なら、いいんだけど、もう一つだけ聞いていい?」


「…………いいけど」


 本当は面倒だし断りたいけど、俺は頷いた。


「この子、名前とか無いの? あんたは小狐って呼んでるけど、それが名前なわけないだろうし」


「……無いな。一応言っておくけど、勝手に付けようだとか思うなよ?」


「え? う、うん。分かったわ」


 ミリアは急に雰囲気の変わった俺の様子に少し困惑しつつも、頷いてくれた。

 ……マジで頼むぞ? お前だけの犠牲で済むのならともかく、もしもそれが親狐の逆鱗に触れていた場合、連帯責任で俺まで終わらされる可能性があるんだ。本当に、頼むぞ?


 そう思いつつ、今度は小狐の意思を確認した。

 小狐が俺と離れるのが大丈夫かを聞いておかないと、もしも大丈夫じゃなかった場合が怖いからな。

 出会ってからは、ずっと一緒に居た……というか、居させられたし。

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