第72話

「……話してくれるんだよな?」


 確実に話してくれる雰囲気だったのに、全然話してくれないから、俺は思わずそう聞いた。

 

「は、話す……わよ」


「なら、早く……いや、まぁ、ゆっくりでいいから、話してくれ」


 変に強く言ったって余計言いずらくなるだけかと思って、俺は優しく……そう、本当に優しくそう言った。

 

「う、うん」


 すると、まんまと騙されたミリアは嬉しそうに頷いてくれた。

 ……こいつ、こんな調子で大丈夫か? このままだったら変なやつに騙され……いや、もう俺に騙されてるわ。


「あ、あのね……わ、私……」


 大丈夫。焦るな。表情に出すな。

 ……小狐に対してもだけど、なんで俺がこんな奴……こんな奴らに気を使わなくちゃならないんだ、という思いは何度でも湧き上がってくるけど、それを抑えつつ、ミリアの言葉を待った。


「私、ね……に、人間じゃないの!」


「……は?」


 こいつ、今、なんて言った? 人間じゃない? 冗談だろう? まさかとは思うけど、こいつも俺たちと同じように人化のスキルを持っているのか?

 え? もしかしてなんだけど、人化の魔法ってあんまり珍しくない? 人間たちが知らないだけで、案外今日すれ違った奴らの中にも何人か魔物がいたりしたのか?


 内心で色々と思いながらも、改めてミリアに視線を向けた。

 すると、俺たちに拒絶されないかを怯えている少女がそこには居た。


「種族はなんなんだ?」


 内心で溜息をつきながら、俺はそう聞いた。

 別にミリアが人間じゃないこととかどうでもいい……どころか、むしろ好都合だと思うし、今俺が気になるのはミリアの種族とあの石、そしてさっきの暴走したような様子についてのことだけだ。

 ……あの暴走については種族を教えてもらえれば分かるんじゃないか? と思っているし、出来ればびっくりした顔なんてしていないで早く答えて欲しい。


「ぇ? あ、え? わ、私が人間じゃないことに、その、な、何かないの?」


「別にミリアはミリアだろ」


 うん。

 ミリアが人間だろうが人間じゃなかろうが、別に嫌いなことには変わりないしな。


「う、うんっ!」


「それより、話を戻すんだが、結局ミリアの種族はなんなんだ?」


「あ、う、うん。私……アンデッド、なの」


 ……だからさっき俺の腕に噛み付いてきたのか?


「あっ、で、でも、最初は人間だったのよ? その、少し前に死んじゃって、それで、気がついたらアンデッドになってたのよ……」


 最初から魔物だった訳では無いのか。……ん? よく考えたら、俺もそうだったな。

 なんか、もう魔物なのが当たり前すぎてちょっと忘れてたわ。

 ……この感じを見る限り、ミリアは俺と違って魔物として生きていく覚悟なんてしてないだろうし、ギルドを潰す件については話さないで、ミリアには秘密にして潰す方がいいだろうな。


「そうか。……辛かった……のか?」


 正直、俺自体が別に辛くなんてないからこそ、ミリアが辛かったのか、別に辛くなかったのかなんて分からない。


「……うん。辛いよ。……さっきのを見たラム達なら分かると思うけど、私、アンデッドだから、言ってみれば死体なのよ。だから、ああやって魔物の魔石の力を込めた石を胸あたりに置いて眠らないと起きることも出来ないし、起きたとしてもラムを襲っちゃった時みたいにしばらくの間理性が飛んで暴走しちゃうのよ」


 死体……死体にしては普通に体温とかがあった気がするんだが、気のせいだったのか? いや、別にそこまで気にしていたわけじゃないからこそ、正直分からないな。

 

「あっ。でも、今日は理性が戻ってくるのが早かったわ」


「俺の腕を噛んだからじゃないか?」


「……ご、ごめんなさい」


 別に怒っているから言った言葉って訳じゃないんだけどな。


「嫌味で言った訳じゃないから、謝らなくてもいいよ」


 わざわざ言う必要なんて無いかと思ったけど、言っておかないとミリアがずっと暗い表情をして面倒くさそうだったから、俺はそう言った。

 

 そして、俺はもうミリアとの会話は終わったとばかりに小狐に目を向けた。

 小狐はミリアの正体がわかっていて、ミリアのことを仲間に……パーティーに引き入れたのかね。

 

「ね、ねぇ。わ、私、アンデッドで、寝起きには人を襲っちゃうけど、まだ、あんた達の……ラム達の仲間ってことでいい、の?」


「キュー!」


 俺は普通に嫌だから、小狐に確認を取ろうとしたところで、小狐はまた急に鳴き声を上げたかと思うと、未だに口元に俺の血を付けたままのミリアに向かって飛び込んでいったと同時に人化を解除しやがった。

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