第71話

「勝手に部屋に入ったことは悪かったけど、取り敢えず、泣き止んでくれるか?」


 もっと上手い言い方っていうのがあったのかもしれないけど、俺は誰かを慰めるのなんて苦手だし、気にしないようにして、自分なりにミリアを慰めるためにそう言った。

 さっきまでは捕まえてないと暴れそうだったから、噛まれてない方の腕でミリアの両腕を抑えるようにして捕まえてたけど、それを離しながら。


「……で、でもっ……わ、たし、ラムのこと、傷つけちゃってっ……」


 すると、やっぱり俺の慰め方が下手だからか、ミリアは涙を流しながら嗚咽で聞き取りにくい声でそう言ってきた。

 ……傷つけたって、腕のことを言ってるのか? ……だとしたら、よく見てほしい。

 不死身スキルのおかげというか、不死身スキルのせいというか、腕なんてもうとっくの前に治っていってるんだよな。

 今のミリアは冷静じゃないからこそ、視野が狭くなってる。だからこそ、気がついてないんだろうな。

 早く気が付かせて、俺は大丈夫だと落ち着かせるべきか、このまま腕のことを気が付かれないようにするべきか、どうしような。

 いや、どうせ気が付かれるのはもう確定なんだから、素直に自分から言う方がいいか。


「よく見ろ。俺は大丈夫だから、落ち着いてくれ」


 そう思い、俺はミリアに腕を見せた。

 ……後、今更なんだけど、もうミリアのことを暴れないように捕まえてる訳じゃないんだから、普通に離れてくれないかな? 涙とか鼻水が服につきそうで嫌なんだけど。

 

「ぁ、ぇ? な、なんで……?」


 ミリアの口元に俺の血が付着していなかったら、ミリアが寝ぼけてて何かを勘違いしただけってことで話を進めても良かったんだけど、思いっきり俺の血がミリアの口元に付いてるからな。

 下手なことを言っても意味が無いと思うし、正直にスキルで治ったことも話すか。


「……スキルで治したんだよ。そんなことより、俺は聞きたいことがあるんだが、答えてくれるよな?」


「だ、大丈夫、なの……?」


「大丈夫だって言ってるだろ。それより、俺の聞きたいことには答えてくれるのか? くれないのか? そっちを教えてくれよ」


「よ、良かった……」


 俺はなんにも良くねぇよ。

 ……この前もだったけど、こいつ、本当に人の話を聞かないな。

 

「はぁ。……取り敢えず、あの石とさっきのお前の様子がなんだったのかを教えてくれ」


 もう教えてくれる前提で俺はそう聞いた。

 何度も何度も同じことを聞くのも疲れるしな。


「ぇ? あ、そ、その……こ、答えないと、だ、ダメ?」


「治ったとはいえ、俺の腕に怪我をさせたよな?」


「うっ、わ、分かったわよ。……で、でも、その……」


 分かったのなら、早く答えてくれないかな? 

 内心でそう思いつつも、顔に出すことなく、俺はミリアの言葉を待った。


「わ、私、あんた達のこと、割と好き、なのよ」


 …………? 

 こいつは本当に何を言ってるんだ? 

 全くわけは分からないけど、強いて何か返事をするとしたら、俺は普通に嫌いだぞ?


「ひ、人としてって意味ね!」


 顔を赤くして、ミリアはそう言ってきた。

 別に変な勘違いなんて何もしてねぇよ。


「……それで?」


 そもそも俺たちは人じゃくて魔物だし、俺たちのどこに好きになる要素があるんだ? と思いながらも、俺は続きを話すように促した。


「だ、だから、今からする話を聞いても、き、嫌いにならないでくれる?」


「……ならないよ」


 元から嫌いだし、話を聞いて嫌いになる訳じゃないんだから、嘘ではないよな。

 そう思いつつ、ミリアが石とさっきの様子について話してくれるのを待った。

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