第69話
目が覚めた。
驚く程にハッキリと目が覚めた。
人化してるから眠ることが出来るとはいえ、やっぱり睡眠の必要なんて無いからこんなにハッキリと目が覚めてるのかな。
まぁ、別にどうでもいいか。
それよりも、今この状況をどうするかの方が大事だな。
俺が眠りについた時と同じように、今も小狐は足まで使って俺に抱きついてきている。
これ、起こしても大丈夫なんだよな? 昨日の夜、明らかに親狐からの圧があった以上、怖いんだけど。
「キュゥー……」
そんなことを思っていると、タイミングよく目を覚ましたのか、小狐が少しだけ動き始めた。
別に起きなくてもいい。起きなくてもいいから、せめてこの拘束を解いてくれ。
無理やり解くわけにもいかないからさ。
「キュー!」
俺の願いが通じたのか、小狐は完全に目を覚ましたみたいで、そんな鳴き声を上げてきた。
「……あぁ、おはよう。取り敢えず、離れてくれるか?」
それを適当にあしらいつつ、俺はそう言った。
すると、小狐は俺の頬っぺに頬っぺたを押し当てて来たかと思うと、直ぐに俺から離れてくれた。
まぁ、これくらいならしょっちゅうされてたし、許容範囲だ。
「小狐はまだ寝ててもいいぞ。俺はミリアが起きてるかを確認してくるからさ」
「キュー!」
「直ぐそこの部屋をノックするだけだぞ?」
「キュー!」
小狐はそれでも、着いてくるみたいだ。
……まぁいいか。よく考えたら、ミリアが起きてなかったらそのままギルドに行くだけだし、別に問題は無いわ。
「起きてるか?」
そして、部屋を出た俺はミリアの部屋をノックしながら、部屋の中のミリアに聞こえるようにそう聞いた。
「……」
返事が返ってくることはなかった。
つまり、まだ寝てるってことなんだろう。
「よし、置いていくか」
ただでさえ俺は一人がいいというのに、小狐という邪魔な存在がいるんだ。
そこに更に邪魔な存在がもう一人追加なんて嫌に決まってるし、ちょうどいい。
昨日、あいつはちゃんと起きるって言ってて、起きてないんだから、置いていかれても自業自得だしな。
「キュー」
そう思って、宿の外に向けて足を向けたところで、小狐のそんな鳴き声と共に俺は服の裾を掴まれた。
……凄く、嫌な予感がする。
「なんだ?」
それでも、小狐を蔑ろにするとどうなるかは昨日親狐に警告されたし、無視をする訳にもいかず、俺はそう聞いた。
「キュ!」
すると、ミリアの部屋の方に視線を向けて、何かを俺にアピールしてきた。
「……ミリアを連れていこうってか?」
「キュー!」
……分かってたことだけど、嫌な予感が当たったな。
まぁ、でも、それは無理だ。
だって、俺はミリアの部屋の鍵を持ってないからな。中に入ることなんてできない。
外から扉を何度か叩いたりしてミリアの名前を大きな声で呼んだりしていれば、ミリアを起こすことは出来るかもしれないけど、この宿に泊まっている他の客や宿の従業員に文句を言われることは確定。
俺としてはそんなのどうでもいいけど、それを言い訳にして、俺は小狐に無理だということを伝えた。
「キューっ!」
すると、突然小狐がミリアの部屋の扉に手を置いたかと思うと、何故か鍵が掛かっていたはずの扉が、ガチャ、という音を立てながら普通に開いた。
「……は?」
その瞬間、俺はそんな間抜けな声を出してしまっていた。
鍵が掛かっていたはずの扉が開いたから……ってだけじゃない。
扉が開いたからこそ、ベッドに横になっているミリアが俺の視界に見えるようになった。それはいい。
ただ、問題なのはベッドに横になっているミリアの胸の上辺りに紫色の光る石のようなものが何か禍々しいオーラを放ちながら浮いていることだ。
……なんだ? あれ。
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