第66話

 ギルドを出たあと、二件ほど店を回ったのだが、俺の求めているフード付きの服か顔を隠せるような仮面なんて物は無かった。

 ……それで顔を隠して犯罪を起こそうとしている以上、ギルドや肉を食べられる店を見つけた時のようにその辺の人間に聞くことなんて出来ないし、地道に探すしかないか。


 一つ問題点を上げるとするなら、店の人にはフード付きの服か仮面で顔を隠していたとしてもバレそうだって点だけど、まぁ、ギルドを潰した後にその店の奴もついでに殺しておけば問題なんてないだろ。

 わざわざ、たまたま来ただけの客の情報を誰かに話すことなんてそいつが犯罪でも起こさない限り無いだろうし、そいつが犯罪を起こしたって直ぐにそいつが犯人だって思い至るわけじゃない。……そもそも、そいつが犯罪を起こしたことが伝わるのもこんな世界なんだ。そんなに早く伝わるとも思えないし、やっぱりギルドを潰した後に店の奴は殺せば 問題ないな。




 そして、とうとう俺の求めている物が見つかることなく、多分辺りが暗くなってきてしまった。


 上を見たら星とかが出てきてるから分かるんだけど、暗視スキルのせいで上を見ないと分からないんだよな。今が夜なのか昼なのかがさ。そこだけちょっと不便だ。

 まぁ、視界がいいことに文句なんて言う気はないんだけどさ。


「今日のところは帰るか」


 そう思いつつ、俺の隣を歩いている小狐に向かってそう言って、ミリアに金を払ってもらって借りた宿に向かって歩き出した。


「キュー」


 あの忌々しい……そう、本当に忌々しい草むしりの依頼をこなした時よりは当然マシだろうが、小狐も色々と歩き回って疲れているだろうと思っていたのだが、今の鳴き声を聞く感じ全然そんな様子は無かった。

 ……魔物の姿の時は森の中を結構歩き回っていたけど、人間の姿で歩き回るのには慣れていないから魔物の時よりも疲れるだろうと思っていたのだが、案外そんなことは無かったっぽいな。

 とはいえ、だからといって帰らなかったら帰らなかったでミリアに余計なことを聞かれて面倒な思いをすることになりそうだし、今日のところは帰るんだけどさ。

 ……本当に面倒だな。


「なぁ」


「?」


 さっきは鳴き声を上げてきたけど、今回はちゃんと鳴き声を上げずに首を傾げるだけで小狐は俺の言葉に反応してきた。


「ミリアの事なんだけどさ、やっぱり追い出さないか?」


「やだ!」


 ……俺が少し前に教えた言葉で首を振りながら小狐はそう言ってきた。

 ……はぁ。あいつ、言っちゃ悪いけど、不慮の事故で死んだりしないかな。

 小狐一人……いや、一匹でも面倒なのに、人間がもう一人って……面倒くさすぎるんだよ。

 

「あっ! あんた達! どこ行ってたのよ!」


 そして、宿の前までやってきたところで、たまたまミリアも宿の外に出てきていたのか、無駄に大きい声でそう言ってきた。

 

「別にどこでもいいだろ。パーティーとはいえ、プライベートな時間っていうのはお互いあるだろ」


「そ、それは……そう、だけど。……わ、分かったわよ。何も聞かないから、どこか食事にでも一緒に行かない? せっかくパーティーを組んだんだから、その記念に」


 なんで俺がミリアと飯なんて食いに行かなくちゃならないんだよ。

 ただでさえ、今日小狐と飯に食いに行ったことで俺は精神的に疲れてるんだよ。それをまた繰り返すなんて、嫌に決まってる。

 ……正直、この世界の飯は想像より普通に美味しかったから、他のものにも興味が無いと言えば嘘になるけど、そもそもの話、もう金があんまり無いからな。

 俺は食べなくても生きていけるし、小狐はさっきいっぱい食べさせてやったんだから、それで充分だろう。……ちょっと……いや、かなり小狐が不満に思わないかが怖いけど、それはもう仕方ない。

 多分大丈夫だとも思うし。


「行かない」


 色々と考えた結果、俺はそう言った。

 もしも小狐が少しでも不満を言うようだったら、後で適当な串焼きでも買ってそれを食わせてやればいい。

 俺の今の全財産を説明したら納得してくれるだろ。……案外聞き分けのいい所もあると思うしな。こいつ。


「……奢ってあげるわよ」


「早く行くぞ」


 まぁ、金を払わずに小狐に飯を食べさせられるとというなら、正直かなり嫌だけど、それを我慢してでも行く価値はあると思う。

 結局、何だかんだ言っても親狐の恐怖がなかった訳じゃないし。

 少なくとも今はミリアを……人間をパーティーに入れたデメリットばかりを感じてるんだ。少しくらいそういう面でメリットを感じたって悪くは無いはずだしな。

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