第65話

 ……なんだ? この低レベルな戦い。

 一人の男は剣に炎を纏っていて、もう一人の男の方は拳に風を纏っている。

 それだけを見たら結構いい戦いに見えなくもないんだけど、単純に遅いんだよ。

 

「あの、あれ、何やってるんですか?」


 まさかあれが本気な訳が無いし、ギルドで行う決闘? には何か最初にああいうことをしなくちゃならないのかと思って、俺は周りにいた俺と同じ野次馬たちの一人にそう聞いた。


「う、うん。あれだけ高レベルな戦いだ。子供に見えないのは仕方ないよ。……まぁ、かく言う僕も見えないんだけどね」


 高レベル……? まさかとは思うけど、ギルドって……いや、ギルド以前に、人間って俺が思っているより弱いのか……? 俺が警戒しすぎだったのか?


「……あの人たち、そんなに高ランクの冒険者なんですか?」


「うん。このギルドでは一番ランクが高いランク5の冒険者だからね」


 ……多分10までだよな? それ、高いって言えるのか? いや、まぁ、よく分からないけど、少なくともこのギルドではあれが一番ランクが高い冒険者みたいだし、このギルドを潰すのは簡単だってことは分かったか。

 ……いや、ここはギルドっていう組織なんだし、当然トップはいるよな? そいつの実力も把握しておかないと不味いか。

 こいつが教えてくれたりしないかな。


「ギルドのトップもあのレベルの強さなんですか?」


 そう思った俺は、直ぐにそう聞いた。


「……んー、恥ずかしい話、ここのギルドのギルドマスターはお飾りだからね。あのレベルの強さは無いよ。……他のギルドのギルドマスターなら僕みたいな人間には強さを測りきれないほどちゃんと強いんだけどね」


 へー。他のギルドはともかくとして、このギルドのトップはお飾りで弱いのか。

 なら、尚更このギルドを潰すことをやめる必要性が無くなったな。


「わざわざ色んなことを教えて下さり、ありがとうございます!」


「気にしないで。君たちも冒険者になるのなら、頑張ってね」


「はい!」


 そんなやり取りをして、俺は小狐と一緒に野次馬たちから離れた。

 本当は今は直ぐにでもギルドを潰してやりたいところだけど、顔がバレて指名手配みたいになるのは面倒だからな。

 せめてフードの付いた服か仮面みたいな顔を隠せる物が欲しい。それを手に入れたら、直ぐに行動に移そう。

 その時には出来ればさっき喧嘩をしていた奴らも居てくれたらありがたいな。

 実力は全然無かったけど、あのスキルはシンプルに欲しいと思えたからな。


 あと一個問題点を挙げるとするなら、ミリアをどうするかだな。

 正直俺としてはミリアに俺がギルドを潰したことがバレたとして、俺を怖がって離れて行くのは心底どうでもいいんだが、顔がバレてるってのと小狐が気に入ってるっていうのが面倒だよな。

 顔がバレてるだけだったら殺せばいいだけなんだけど、小狐が気に入ってるからこそ、殺すことなんてできないんだよ。……うん。本当にどうしような。

 ……まぁ、ミリアが眠るであろう夜に決行すれば大丈夫か。


 ……人間に行動を縛られるっていうのは本当にストレスだな。

 こんなことなら、最初からお試しだったとしてもミリアとパーティーなんかを組むべきじゃなかったな。

 パーティーなんて組んでいなければ、小狐があいつを気に入ることもなかったんだし。

 ……はぁ。まぁ、過ぎたことを考えても仕方ないか。

 今はフード付きの服か仮面のような顔を隠せる物を売っている場所を探すことに力を入れよう。

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