第64話

 美味かった。本当に、めちゃくちゃ美味かった。

 小狐がいなくて、俺一人だったらもっと美味しかったと思う。

 ……普通、こういうのって一応異性との食事なんだから「君と食べたから更に美味しかったよ」みたいな臭いセリフを吐くものだと思ってたんだが、そんなセリフ、死んでも言いたくないもんな。

 だって、さっき思った通り、絶対俺一人で肉を食ってたらもっと美味しかったと思うし。


「満足……はしてないよな。追加で頼むか?」


 俺が小狐より早く食べ終わっていたから、小狐が食べ終わったところで、満足したかを聞こうとしたのだが、いつも小狐が食べていた量を思い出した俺はいつの間にかそう聞いていた。

 ……本当は俺もまだまだ食べられるし、小狐なんかに金を使ったりせず自分に使いたいんだが、小狐をちゃんと満足させないと親狐が怖いからな。……少なくとも、昨日満足いくほど食べさせることが出来なかった事実があるんだ。それが連続ともなると、小狐も不満を感じるかもだし、そうなったら俺は終わりだ。

 

「うん!」


「……そうか」


 断って欲しかったな、と思いつつ、美味さの割に案外安かったから、俺は何皿か追加で注文をした。

 ……もちろんと言うべきか、そこに俺の分はもう含まれていない。

 この世界に来て初めての食事だったし、さっきは食べたけど、別に俺は食事を必要とする種族じゃないしな。小狐のせいで金の消費が激しそうだし、少しでも節約していこう。




「よし、そろそろ行くか」


 小狐が満足してくれたかは分からないけど、小狐が10皿目を食べたところで、俺はそう言った。

 ……いくら安いとはいえ、これ以上は流石にやばいと思ったからだ。

 いつも食っていたなんの調理もされていない生肉よりは絶対美味しかったと思うし、いつもより量は少ないかもだけど、満足してくれたともう信じよう。


「うん!」


 金を払って、小狐と一緒に店を出た俺は、ギルドに向かって歩き出した。




「誰にものを言ってんだテメェ!」


「そりゃこっちのセリフだ!」


 そして、ギルドに着いたところで、二人の男のそんな怒気をはらんだ怒鳴り声が聞こえてきた。

 ……なんだ? トラブルか? 

 もしも戦闘になるようだったら、かなり運がいいぞ? 声を上げた奴らの実力が分からないとはいえ、ギルドに所属している奴じゃないってことはないだろうし、損は無いはずだ。

 そう思った俺は、直ぐに野次馬たちに混じって声が聞こえた方向に歩き出した。

 小狐とはぐれないように、嫌々ながらも手を繋ぎながら。


 見た目が女の子っぽくて背が小さいこともあってか、そいつらを囲んでいた野次馬達は俺たちのことを前の方に押し出してくれた。

 冒険者っていうくらいだし、こいつら全員スキルくらい持ってるよな。……全員から奪ったらどれだけのスキルが手に入るんだろうな。……まぁ、少なくとも今はギルドの実力なんて全然把握出来てないし、何もしないけどさ。


「いい度胸だ! 表に出やがれ!」


「望むところだ!」


 そんなやり取りをしつつ、男たちはギルドの奥の方に向かっていった。

 それに続くように、野次馬たちが着いていっていたから、俺もそれに続いた。

 なんか奥にそういう空間でもあるのかな、なんて思いつつ、ちょっとだけ楽しみにしながら。

 一応街に入ってきた直後に人間と戦いはしたけど、あいつらはどう考えても下から数えた方が早いレベルの強さだっただろうしな。

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