第57話

「こ、ここをっ、真っ直ぐよ」


 左には小狐が俺と手を繋いでいる状態で隣を歩いていて、右にはさっきまで泣いていたからか、嗚咽を出しながらも、話をするために取り敢えず俺たちを宿に案内してくれる気の強そうな女の子がいる状態だ。……ちなみにと言うべきか、小狐みたいに手を繋がされている訳では無いけど、逃げないようにか服は思いっきり掴まれている。

 ……さっきみたいに白い目で見られることが無くなっただけ全然マシなんだけど、なんでこんな状況になってるんだろうな。

 

 そんなことを考えている間にも、右からは「ぇっく、ひっく」と嗚咽を出す音が聞こえてきて、うるさい。……所々鼻水を啜る音も聞こえてくるし。


「おい、まだ泣いてるのか?」


「な、泣いてなんかないわよ!」


 ……それは流石に無理があるだろ。

 俺は泣いてるお前のことなんてどうでもよかったのに、周りがそうもいかなかったから、今こうやって一緒にいることになってしまってるんだからな。

 ……と言うか、お前、せめて自分の右手を見てから言えよ。……左手は俺の服を掴んでいるからともかくとして、お前の右手は今、涙なのか鼻水なのか分からないけど、めちゃくちゃベタベタしてて気持ち悪いからな?

 ……汚いし、ティッシュとかを持ってれば渡してやっても良かったんだけど、持ってないしな。どうしようもない。


「はぁ。ほら、話くらいは聞いてやるって言っただろ。だから、泣き……いや、その、落ち着けって」


 めんどくさいけど、俺は片手でそいつの顔に手を当てながら、涙を拭くように目元を軽く擦ってやった。

 どうしようもない、で放っておければ良かったんだけど、どの道後で話を聞く時に泣き止ませないと話をしにくいし、もう仕方ないと割り切ろう。

 

「……うん。……あ、ありがとう」


 幸いと言うべきか、嗚咽の音はまだ聞こえるけど、一応泣き止んでくれたみたいだから、行動に移した意味はあったみたいだし、良かったよ。


「あっ、こ、ここよ!」


 そんなことをしているうちに、いつの間にか宿に着いていたみたいで、そいつはそう言いながら宿に向かって元気よく指をさしていた。……まだ嗚咽の音は聞こえるけど。


 宿は別に豪華な訳でもなく、貧相でボロい訳でもない、本当にザ・普通って感じの宿だった。

 

「なら、さっさと入るか」


 そう言って、俺たちは宿の中に入った。

 そして、気の強そうな女の子に二人部屋の部屋を一部屋借りてもらった。

 ……本当は俺と小狐で別々の部屋を借りてもらいたかったんだけど、小狐が嫌がったから二人部屋にしてもらったんだよ。

 ……久しぶりに一人の時間が部屋で作れると思ったんだが、小狐が嫌がってるのを無視して無理やり一人になったって後が怖いだけだからな。……主に親狐とかがさ。


「それで、話はどこで聞いたらいい? 俺たちの部屋か? それとも、お前の部屋か? どっちでもいいぞ」


 こいつはこいつでもう既にここの宿で部屋を借りているみたいだから、俺はそう聞いた。

 

「あんた達の部屋でいいわよ」


「なら、こっちだな」


 そして、部屋に入った俺は二つあるベッドの内の一つに腰を下ろした。

 すると、小狐がまるで当然のことかのように隣に座ってきて、気の強そうな女の子は俺の対面にあるベッドに「……私はこっちに座らせてもらうわね」と言って腰を下ろしていた。


「それで? 聞いて欲しい話っていうのは?」


 それを確認した俺は、さっさと終わらせるため、直ぐにそう聞いた。

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