第56話
ギルドに戻って、ゴブリン討伐の依頼の報酬を受け取った。
受付の人間が昨日と違う人間だったからか、今日はイライラさせられることもなく、普通に報酬を受け取れた。
本当はその報酬を三等分にして、気の強そうな女の子に金を渡そうと思ってたんだけど、魔物には心臓の代わりに魔石があってそれには価値があるってことを教えてもらった礼として、報酬の半分をそいつに渡した。
……まぁ、それくらいの知識、どうせ普通に人間の街で過ごしていたら嫌でも気がついただろうし、後腐れなく縁を切るためのサービスってやつだ。
「えっ? 報酬は無しって話じゃなかったの?」
「最初から報酬は渡す気だったんだよ。お前は役に立ってくれたしな」
俺の言葉を聞いた気の強そうな女の子はびっくりしたような表情から一転して、嬉しそうな表情で俺の目を見つめてきた。
「じ、じゃあ! 私は合格ってこと?!」
「……いや、俺はお前をパーティーに入れる気は無い。だから、ここでお別れだ」
「な、なんでよ! 私は役に立ったって言ってくれたじゃない! なら、私とパーティー組みましょうよ!」
……役に立つって嘘をつかずに本当のことを言ったのはこいつが自分は役たたずだからパーティーに入れて貰えなかったんだ、みたいな自己嫌悪に陥らないためだったんだけど、もしかして、逆効果だったか?
そっちの方が後腐れなく別れられると思ったんだけど、失敗だったか。
「……お前なら、俺たちなんかのところじゃなくても上手くやっていけるよ。じゃあな」
内心で少しだけ後悔をしつつ、俺は報酬も渡したしと思い、そう言って小狐を連れて歩き出したのだが、後ろから服を掴まれて、直ぐにまた立ち止まることになった。
「ま、待ってよ……わ、私、あんた達のところじゃないとダメなのよ……」
めんどくさいな、と思いながらも後ろを振り向くと、半泣きになりながらそいつはそう言ってきた。
……今日の朝も思ったことだけど、俺に泣き落としは通用しないからな?
と言うか、俺たちのところじゃないとダメって、何を訳のわかんないことを言ってるんだよ。
性格は残念だと思ってるけど、ちゃんと能力はあるんだから、基本的にはどこででもやっていけるだろ、こいつは。
「ま、待って! ほ、ほんとなの! ほんとに私はあんた達のところじゃないとダメなのよ……せめて、話を聞いてよ……」
そう思いつつも、俺はもう答えはちゃんと口に出してるんだから、服を掴まれていることも無視して歩き出した。
すると、もう半泣きとかじゃなく普通に涙を流してそう言ってきた。
……俺に泣き落としは通用しない。それに間違いは無い。
ただ、周りの人間たちは別だ。
どれだけの時間この街で過ごすことになるのかは分からないけど、女の子を泣かせながらも無視をするようなやつ、みたいな噂が立つのはどれだけ俺が気にしなくても色々と面倒なことになるだろうし、無視は出来ない、か。
……もうギルドからも出てるし、スキルを奪って本当の意味で関係を終わらせてやろうかな。
「はぁ。俺たち、泊まる場所が無いんだよ。いい宿を紹介してくれて、金も払ってくれるって言うのなら話くらいは聞くけど、どうする?」
「う、うん! わ、かったわ! わ、私に任せてっ!」
……ほんとになんなんだ? こいつは。
俺、普通に断られる前提で言った内容だったんだけど、なんで迷いなく頷けるんだよ。
……まぁでも、確かにちょっとしつこくてウザかったけど、宿を紹介してくれて金まで払ってくれるって言うのなら、スキルを奪うのはやめておいてやるか。
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