第55話

「取ってきたわよ!」


 両手にゴブリンの耳と魔石を持って、そいつは俺たちの所まで笑顔で戻ってきた。

 ……なんか、ギルドで依頼を取ってきてもらった時も思ったけど、犬みたいだな。

 ……ゴブリンの血で手が汚れているところさえ除けばだけど。


「あぁ、ご苦労さま」


 こいつをパーティーに入れる気はない以上、これからも討伐依頼を受けるのなら今度は俺か小狐があんな感じに魔物を解体しなくちゃなのか。

 ……まぁ別にできなくは無いけど、めんどくさいし、ちょっとだけこいつをパーティーに入れるメリットが増えたな。


 と言うか、今更なんだけど、抱きつかれた時もそうだったように、ゴブリンの前に俺が出るっていうのも結構危ない橋を渡ってるな。

 スライムの時はいつも俺が攻撃しない限りゴブリンが敵対してくることは無かったし、もしも今回もそんな感じになってしまっていたとしたら、絶対怪しまれてたし。

 たまたま今回のゴブリン達が俺と敵対してくるゴブリン達だったのか、人化してたからなのかは分からないけど、ラッキーだったな。

 ほんと、俺は運に助けられてるな。


「う、うん!」


 そう思いながら、気の強そうな女の子が頷いたのを確認した俺は、二人を連れて街に向かって歩き出した。

 ……ウォーターボールでゴブリンの血で汚れた手くらい洗わせてやっても良かったかな、と思うけど、手の内を見せたくないし、なんか、こいつもあんまり気にして無さそうだし、そのまま。

 どっちかって言うと、小狐の方が気にしてそうだった。

 小狐自体にゴブリンの血が付いている訳じゃないから、多分臭いだ。……俺も正直ちょっとあんまり近づかないで欲しかったし。

 ……そう考えると、なんでこいつは全く気にしてないんだよ。

 慣れてるってことなのか?


「どうかしたの?」


 そのことを不思議に思ってジロジロと視線を向けていたからか、そいつは不思議そうに首を傾げながらそう聞いてきた。

 ……上だけを見たら可愛いと思うけど、手に持っているものや付着している血を見たら普通にホラーなんだよ。


「何でもない。気にしないでくれ」


「そう? なら、気にしないわね。……あっ、ね、ねぇ、そう言えば、どうだった?」


「どうって、何がだ?」


 脈絡が無さすぎて、そんなことを言われたって分からないんだが。


「わ、私をパーティーに入れるって話よ!」


「あー……後でな」


 こいつをパーティーに入れるメリットが増えたとはいえ、俺たちが魔物でこいつが人間である以上、面倒なことになるのは目に見えてるし、当然断るつもりだ。

 ただ、ここで断ってまたしつこい感じになられたらめんどくさいから、俺は一旦そう言った。

 ギルドから報酬を受け取って、こいつにも報酬を渡した時、ちゃんと断るつもりだ。

 こいつは色々と残念ではあるけど、役に立つことは間違いないと思うし、俺たちとは違うパーティーで頑張ってくれ。

 スキルも別に奪ってないんだしな。


 ……さっき心臓の件でちょっと思うところはあったけど、割と曖昧だったから流石に気のせいだと思ってるしな。

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