第58話
「わ、私ね」
「あぁ」
「凄い、のよ」
引っぱたいてやろうか?
真面目な顔をして話し出したと思ったら、何を言ってるんだ、こいつは。
「ま、待って! 違うの。言葉が足りなかったわ……その、不安で」
「取り敢えず、話くらいは聞いてやるって言ったんだし、話だけは聞いてやるから、ゆっくり話せ」
本当はさっさと話して貰いたいけど、そんなことを正直に言ったってこいつの話すスピードが早くなるとは思えないし、俺はなるべく優しくそう言った。
「う、うん。……私ね、いつもな訳じゃないんだけど、たまに凄い勘が働く時があってね?」
急になんの……いや、こいつ、まさか、俺たちの正体にその勘ってやつで気がついていて、それで何かしらの脅しをするために近づいたんじゃないのか? ……もし仮にそうだとしたら、今までの行動に全部辻褄が……合わないな。
……なんで脅そうとしている相手にこいつは宿に泊まる金を出してるんだって話になってしまう。
……まぁ、金じゃなく、魔物としての力に何かしらの期待をしているんだとしたら、やっぱり辻褄が合ってしまうが、こいつがそんなに器用な人間には見えないんだよな。
色々と残念だし。
それが演技だって言うのなら話は変わってくるんだろうけどさ。
……一応、いつでも殺せるように構えとくか。
宿の主人には絶対に俺たちが殺したってことがバレるだろうが、人間の犯罪者として追われるのと、人間に擬態出来る魔物として追われるの。どっちの方がマシかなんて一目瞭然だ。こいつに俺たちが魔物だとバラされる危険性が少しでもある以上、犯罪者として追われることになるのはもう仕方ないと割り切るしかないだろう。
時間があるのならもっといい考えも浮かぶかもしれないが、今はこれくらいしか思いつかないしな。
「……あぁ、それで?」
大丈夫。
元から声が中性的なこともあってか、声が低くなったりはしてない。
「私が言ったこと、覚えてる?」
「……どれのことだ?」
「私はあんた達のところじゃないとダメなのって言ったの、覚えてない?」
「……確かに、そんなこと言ってたな」
能力的に基本的にだったらどこでもやっていけるだろう、みたいなことを考えてたわ、確か。
「あれ、ほんとにそのままの意味なのよ」
「……そのままの意味?」
「……そうよ。なんでなのかは分からない……こともない、かな。……その、心当たりが無いわけじゃないけど、私はあんた達のところ以外のパーティーに入ったら絶対に消滅するっていう確信があるのよ。……勘、だけど」
……ん? つまり、俺たちの正体に気がついて近づいてきた訳じゃなく、死にたくないからこそ、俺たちに近づいてきたって話か?
だったら、その勘ってやつ、当てにならないだろ。
俺たちみたいな魔物の二人組に自分から近づくなんて、絶対安全じゃないし。
小狐は分からないからともかくとして、俺は邪魔だと感じたり、スキルがめちゃくちゃ魅力的だと感じたら普通に殺したりする。そんな野郎だ。絶対間違ってる。
確かにこいつは今生きてるけど、それも色々な懸念があってのたまたまだしな。
「なら、パーティーを組まずにソロで活動したらいい」
「……それじゃあダメ、なのよ」
「なんでだよ」
「……いつかは言う、けど、今は言えないわ」
今は言えないって……いや、まぁいいか。
もう話は終わりっぽいし、さっさとこいつを部屋から出そう。
こいつが死ぬとか、俺にとってはどうでもいい話だしな。どれだけこいつが使える人間でも、結局人間をパーティーに入れる方がデメリットが大きいんだ。
邪魔でしかない。
そもそも、俺の今の目標はギルドをぶっ壊すことだしな。
こいつはそれを見て見ぬふりできるようなやつじゃないだろ。多分。……わからんけど。
「そうか。なら、話は──」
「キュー!」
話は終わりだな。出ていけ。そう言おうとしたところで、小狐が俺のいいつけを破って急に鳴き声を上げたかと思うと、話をし終わって不安そうな顔をしていたそいつを押し倒して、まるで自分が勝者だと言わんばかりに俺の方を向いてきた。
……いや、何やってんの? てか、せっかく魔物だってバレてなかったのに、どう言い訳したらいいんだよ。人化を解除した訳では無いとはいえ、人間が鳴き声を上げるなんて、絶対不自然に思われるぞ。
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