第53話
「見つけてきたわよ!」
そうして、適当な木の枝を折って武器として持ちながらあいつが戻ってくるのを待っていると、そんなことを言いながらそいつは笑顔で自信満々に俺たちの元に戻ってきた。
「そうか。なら、行くか」
「う、うん。五匹くらい居たけど、大丈夫?」
「五匹くらいなら平気だ」
多分、街の中で殺した人間たちよりちょっと強いか同等程度だと思うしな。
あいつら、絶対最底辺の人間ってやつだっただろうし。
「別に戦えなくても問題なんて無いんだけど、お前って戦えるのか?」
気の強そうな女の子にゴブリンのいる場所に案内をしてもらいながら、俺は何気なくそう聞いた。
隠密と索敵が得意だって話だったし、戦えなくたって何も問題は無いから、本当に何気なくだ。
こいつに興味があるわけでもないしな。
「えっ? あ、えっと、わ、私は……その、す、スライムくらいなら倒せるわよ?」
……俺じゃん。
いや、俺の事をスライムと思っていないからこその発言なんだろうけどさ。
多分だけど、一般的に考えたらスライムってのはかなり弱い種族だと思うし、戦えないってことなんだろうな。
「そうか。取り敢えず、小……お前は何もしなくていいからな」
「うん」
確かに今は役に立ってるし女の子とはいえ、こいつはこんなに怪しいんだ。
俺だけじゃなく、小狐の手の内も知られない方がいいはずだ。
だからこそ、俺は小狐にそう言った。
「ち、ちょっと、ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫だって」
強いて大丈夫じゃないところ……心配なところを上げるとするのなら、素手で殴っただけでも人間の顔をぐちゃぐちゃにできるほどの力を持っている俺が武器まで使ってゴブリンを殴るつもりなんだ。
当然あの時の人間以上にぐちゃぐちゃになると思うし、こいつが俺を怯えて逃げたりしないかが心配だ。
別にパーティーに入れる気なんて無いとはいえ、怯えて逃げられるなんてことになったら、報酬を渡して後腐れを無くすってことが出来なくかもしれないだろ。
……ついでにもう一つ心配なところを上げるとするなら、武器を使ってるとはいえ普通の人間がゴブリンをぐちゃぐちゃになんてできるのかって話だよな。
……頑張って手加減するか。見た目的にも多分不自然だろうしな。
仮に手加減が失敗してしまった場合は仕方ない。自分の身体能力を強化するスキルを持っているとでも言えばいいだろう。
実際、嘘じゃないしな。仮にこいつが嘘を感知するスキルを持っていたとしても大丈夫だ。
「ギャギャギャギャ!」
そうして歩いていると、話に聞いていた通り、ゴブリンが五匹現れた。
その瞬間、気の強そうな女の子は俺の後ろにゴブリンから隠れるように不安そうに移動してきた。
……怖いのなら、得意な隠密で近くに隠れとけば良かったんじゃないのか? と思うけど、まぁいいか。
「グギャッ」
そう思いつつ、俺はゴブリンに近づいて、軽く……そう、本当に軽く持っている木の枝でゴブリンを殴った。
すると、一撃で倒れはした。
ただ、軽く殴りすぎたのか、ゴブリンは怒ったような表情をして起き上がってきたかと思うと、今度は五匹全員で俺に向かって来た。
……確かに軽く殴ったことは間違いないけど、ゴブリンを殺せる程度の威力は込めたと思ったんだけどな。
……これ、今更なんだけど、街の中でアイツらを殺した時、アイツらがあんなことになったのって俺が意図せずに打撃攻撃スキルを発動してたからだったりするのか?
打撃攻撃スキルなんてスライムの体じゃ使えなかったから分からなかったけど、よく考えてみれば確かに人間の体になって素手で殴ったりなんかしたら発動するよな。
不意打ちスキルだって一応俺が意識せずとも勝手に発動してくれるし、充分有り得るぞ。
……もちろん、俺のレベルが高かったからっていうのも当然あるとは思うし、やっぱり怪しまれないように多少の手加減は必要だけど、この武器を使っている限り、最初に考えていた時よりは手加減なんてしなくてもいいのかもな。
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