第52話
「この森よ」
入る時とは違って、特に緊張することも無く街から出たところで、気の強そうな女の子はそう言ってきた。
俺たちが来た森とは反対側だな。
……と言うか、今更なんだけど、街に入る時や出る時の記録みたいなのは取られてないっぽいな。
もしもそういう記録が取られてたんだとしたら、小狐はどこから街に入ったんだって話になって、怪しいから絶対止められてただろうしな。
特に止められることも無く出られたんだから、大丈夫だったってことなんだろう。
……こいつのせいで警戒心が薄れていて危なかったけど、何も無かったのなら、まぁいいか。何も無かったのに何かを言ったところで意味なんて無いし、むしろ怪しまれる原因を作るだけだからな。
それで、こいつの特技はなんだったかな。
……確か、隠密と索敵か。
「じゃあ、早速仕事だな。早く役に立ってくれ」
「え?」
だから、え? じゃねぇよ。
さっき自分で隠密と索敵は得意だって言ってただろ。
だったら、早くゴブリンの位置を探れよ。
一応、お前はお試し……言わば面接中の立場なんだから、特技的にゴブリンの位置くらい自分から探って俺たちに教えるべきだろ。
……これ、俺がおかしい訳じゃないよな?
「……隠密と索敵が得意なんじゃなかったか?」
まさかとは思うけど、嘘だったのか?
……その場合、目的はなんだ? まさか本当に俺たちとパーティーを組みたいだけ、なんてことは無いだろうし、本当になんだ?
「そ、そうよ! 得意よ! ち、ちょっと待ってなさい。直ぐに見つけてくるからね!」
「…………」
やっぱり、ただ馬鹿なだけなのか?
結局俺たちとパーティーを組みたがっている理由はまだ分からないけど、もう本当にこいつはただ馬鹿なだけの気がしてきたぞ。
俺が内心で呆れながらそう思っていると、気の強そうな女の子は森の中に消えていった。
「キュー?」
あいつが居なくなったからか、小狐がどうするの? と言った感じに俺の方を見ながら鳴き声を上げ、首を傾げてきた。
「……待ってろって言われたんだし、待つよ」
実際、本当に見つけてきてくれるのならこっちとしても楽でいいし。
……てか、今更なんだけど、あいつがゴブリンを見つけてきてくれたら、どうやって倒そうかな。
倒すこと自体は簡単なんだけど、あれだけ怪しい女だ。スキルは出来れば見せたくない。……何があるか分かったものじゃないからな。
ただ、だからといって、俺は武器を持っていない。
当然だけど、武器を持ってないから倒せないって訳では無い。路地裏で絡んできた人間たちを殺した時に理解したことだけど、俺はレベルのおかげでスキルを使っていない素の状態でもあれくらいの奴なら余裕で殺せるくらいには強いからな。
……問題はそれが果たして普通のことなのか、ってことだ。
武器があるのならともかく、武器も無しに普通の人間がゴブリンを殴り殺したりなんてしたら不自然じゃないか? っていう不安があるんだよ。
……その辺の木の枝でも折って使うか? あの木の枝とか、結構太いし折れば武器になるよな。
そうするか。
あいつが戻ってきた時に枝の事を聞かれたら、たまたま落ちていたから武器にしようと思ったとでも言えばいいだろう。
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