第46話
街の中で眠る場所を探し始めて、しばらくの時間が経った。
正直、眠る場所なんて俺はこの世界に魔物として生まれてから洞窟の硬い地面だったり、森の中の硬い地面だったりと変なところでしか眠ってないから、どこでもいいっちゃどこでもいいんだけど、問題は俺たち……いや、俺の見た目だよな。
小狐は人化した美少女の姿じゃなくて、小狐の姿に戻れば、多分動物と思われて寝ている間に何かをされるって心配は無いだろうけど、俺は女の子に見えるっぽいし、適当なところで寝るのは危ないよな。
……かと言って、小狐みたいに人化を解いたら俺なんて見つけ次第殺される。……どう見ても俺は小狐と違って魔物だし。
……無理だと決めつけないで、宿にでも足を運んでみようかな。……場所は知らないけど、それはその辺の人に聞けばいいだけだし。
俺がちょうどそう思い始めたところで、隣を歩いていた小狐の腹の音が聞こえてきた。
「キュー……」
その音に反応して、小狐の方に目を向けると、俺の方を見て悲しそうに鳴き声を上げてきた。
……そういえば、いつもなら適当に魔物を狩って、それを小狐に食べさせてるような時間か。
……一日くらい我慢しろ、って言ってやりたいけど、そんなことを言ったら親狐に殺されそうだし、仕方ない、か。
「はぁ。串焼きでいいか? 返事は「うん」とか「やだ」とかで言ってくれ」
「うん!」
……伝わるのか。
まぁいいけど。
「なら、さっさと買いに行くぞ」
「うん!」
……はぁ。
一本や二本で足りるとは思えないし、今ある金を全部使うしかないか。……全部使っても多分ちょっと足りないだろうし。
……宿はもう無理だな。……まぁ、どち道無理だと思ってたし、別にいいか。
「すみません、串焼き、これで買えるだけください」
匂いを頼りに小狐を連れて串焼き屋の前にやってきた俺は、あるだけの銅貨を渡してそう言った。
「はーい」
すると、直ぐにそんな返事とともに串焼きを八本作ってくれた。
……正確に数えてなかったけど、俺の全財産は串焼き八本分だったのか。
「小……お前、全部持てるか?」
無理だとは思いつつも、俺は一応そう聞いた。
「やだ」
……やだってのはさっき俺が「うん」か「やだ」とかで答えてくれって言ったから、言ったんだよな。
単純に持つのが嫌だから、みたいなんではないよな?
「……持てないって意味だよな?」
「? うん!」
俺が改めて確認をするようにそう聞くと、小狐は一度首を傾げてからそう言って頷いてきた。
「なら、半分なら持てるか?」
「うん!」
なんで小狐が食べる串焼きを俺が持って運ばなくちゃならないんだ、と不満が湧いてくるけど、それを口にしたって親狐がいる以上、俺は何も出来ないんだ。
大人しく運んでやるから、もうさっさと食べてくれ。
串焼きを食べている小狐を連れ、俺は小狐の串焼きを持ちながら寝る場所を探していた。
そして、俺は思い出した。
人化できるようになったことによって忘れてたけど、俺、スライムだから別に眠らなくてもいいじゃん。
小狐を服の中に隠して、小狐にはその中で眠って貰えばいいだけの話じゃん。
……ただでさえ疲れてるのに、無駄に歩かされたな。……いや、疲れてるからこそ、忘れてたのか。
「ゆっくり食べていいからな」
そのことに気がついた俺は適当な場所に小狐と一緒に座ってそう言った。
もう歩きながら食べさせる理由も無くなったしな。
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