第44話
「……やっと終わった」
スライムに転生してから初めてここまで疲れたかもしれない。
……これまでその時の俺より強い魔物と戦ってきたりもしてるのに、まさか草むしりなんかでこんなに疲れることになるとはな。
「……キュー」
小狐も俺同様にかなり疲れたのか、少し汗をかきながらそんな鳴き声を上げ、俺に近づいてきた。
俺はスライムだからか汗はかいてないけど、もしもスライムじゃなく普通の人間だったのならかなり汗をかいて疲れていただろうな。
……だからこそ、今だけは鳴き声を上げたことにも目を瞑っててやろう。
スキルのおかげで分かりにくいけど、もうかなり辺りも暗くなってきてるし、これじゃあ宿とかも借りられなさそうだな。
……まぁ、少なくとも今は金も無いし、最初から宿を借りる予定なんて無かったから別にいいんだけどさ。
俺たちは魔物だし、今まで通り外で暮らしたらいいだけだしな。
……元人間としてはベッドで寝たいけど。今はまぁいい。
そんなことよりも、さっさと依頼達成の報告をしにギルドに戻ろう。
「小狐……いや、お前、歩けるか?」
もう俺も疲れてるからか、普通に小狐と言ってしまったことに口を抑えつつ、そう聞いた。
「キュー」
すると、そんな鳴き声を上げながら小狐は頷いてくれた。
「……今とかさっきのはいいけど、もう鳴き声は上げないようにな」
小狐に対して鳴き声をあげないように改めて言ってから、俺は小狐を連れてギルドに戻った。
「終わりましたよ」
そして、直ぐにでも休みたかった俺は真っ先に受付の元へ行って依頼が終わったことを報告した。
「……随分時間がかかりましたね? もう一人の方はかなり疲れている様子ですし」
「当たり前でしょう。あれだけの広さがあるんですから」
「あれだけの広さ……? まさかとは思いますけど、あの依頼のことを知らずに受けたんですか?」
……この言い方、まさかとは思うけど、あの草全部をむしる必要は無かったのか?
なら先に言っておけよ。
どう考えても言ってなかったそっち側の責任だろうが。
疲れてることもあってか、必要以上に腹が立つ。
……多分、どっかに書いてたってこともないだろうし。
「はい、知りませんが」
「……そう、ですか。それは申し訳ありません。まさか知らずに受けているとは思ってもいなくて。……どれだけの草をむしったのかを聞いても?」
「全部です」
「……全部、ですか? 普通、分かりません? 報酬の少なさから」
……ここが人目につくところじゃなければ、こいつ、普通に殺してたぞ。
知らねぇっつてんだろ。
「知りませんでしたから。ギルドというのはケチな組織なんだと思ってましたよ」
ブラック企業なんて言っても伝わらないと思ったから、俺はあの時思ったこととは少し変えてそう言った。
「そうですか。でも、では、こちらが依頼達成の報酬になります。もちろんですが、あなた方が勝手にやったことに追加報酬は出ませんよ」
「……どうも」
こいつ……いや、このギルドごと、潰してやろうかな。部下の失態は上司の失態って言うし、組織的にも受付になんて置いておくならちゃんと教育しておくべきだろう。
……ギルドにいる人間の実力が大体わかってきて、俺の方が強そうだったらマジで潰してやろうかな。
そんなことを思ってしまうくらいには疲れてるし、腹が立っている。
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