第38話

「……普通にいるじゃん」


 男たちから、多分金を取って一文無しじゃ無くなったことに喜びつつ歩いていると、一人だけではあるけど、頭に耳の生えた人が歩いているのが見えてしまい、俺は思わず呟くようにそう言ってしまった。

 獣人……って種族は俺の前世での知識のものだし、合っているのかは分からないけど、頭に獣耳の生えた人が普通に歩いているし、小狐も人化すれば普通に歩けそうじゃん。


 ……こうやって服の中に隠して歩くのは小狐的にも窮屈だろうし、俺的にもなんで小狐の為に……って思いが出てきてしまっているから、ちょうどいい。

 今は人気のあるところに出てきてしまって、あの路地裏からも離れてしまっているからダメだけど、また人気の少ないところが近づいてきたらそこに行って小狐には人化をしてもらい自分で歩いてもらおう。

 ……親狐も自分で歩かせるくらいのことで怒ったりはしないだろうしな。

 仮にそんなことで怒るんだとしたら、もう俺はとっくにあの時に殺されてそうだし。


「そういえばなんですけど、あの時の洞窟の調査って結局どうなったんですか?」

 

 そう思いながら歩いていると、いつだったか聞いたことのある声が聞こえてきた。

 ……この声、確か洞窟に調査をしに来ていた人間たちの声だ。

 まさかこんなところで再会するなんてな。

 あの時は隠れてたし顔も知らなかったから、本当に奇跡だと思う。

 俺もあの洞窟の調査がどうなったのかは気になるから、少しだけつけてみるか。


「あぁ、俺たちよりもランクの高い冒険者がちょうど今日の昼くらい……つまりさっき調査をしに行ってるらしいぞ。気になるのなら、そいつらは無事だったら夜くらいに帰ってくるだろうから夜にギルドにでも行ってみたらどうだ?」


 ……さっき調査をしに行ったって、マジか。

 俺、割と危なかったんじゃないか? あと少しでもゼツを倒すのが遅かったら、スライムがドラゴンと戦っている訳の分からない光景を見られてたってことだろ? 自分で言うのもなんだけど、スライムって絶対弱い種族だし、そんなスライムがドラゴンと戦ってるなんて、絶対脅威と思われて色々なところに通達されてただろ。

 ……あのまま親狐が来ずに戦ってたら今もまだゼツを倒せてない可能性があるし、ラッキーだったのかもな。……めちゃくちゃ警告……というか、釘を刺されたけど。


 まぁ、もう過ぎたことはいいや。

 それよりも、ギルドか。

 どこにあるのかは知らないが、俺も行ってみるか。

 ……そこには俺より強いやつもいそうだし、俺が魔物だってバレたらその瞬間終わりそうだけど、それくらいのリスクは取っても大丈夫なくらいのリターンがあるはずだ。

 俺はこの世界のことを知らなすぎるからな。

 どんな些細なことであっても、今は嬉しい。


 一応あいつらから離れながらそんなことを思った俺は、ちょうど見えてきた路地裏にもう一度入った。

 いくらなんでも小狐を今みたいに服の中に隠したまま俺たち魔物にとっての敵の巣窟に行けるわけがないからな。

 最悪見つかっても動物で通用するかもしれないけど、もしも通用しなかったら魔物を連れた人間だって顔も覚えられて不審がられるかもだし、最悪指名手配なんてものにもなるかもしれないんだ。

 ただでさえリスクのある場所なんだから、少しでも危険性は無くしておくに越したことはないはずだ。


「小狐、人化出来るか?」


「キュー!」


 俺が小狐にそう言うと、小狐は直ぐに人化してくれて、そのまま俺に抱きついてきた。

 ……小狐のこのスキンシップの激しさはなんなんだよ、と思わないでもないけど、邪険にすると親狐が怖いから、拒絶することなく、俺は小狐の頭を撫でてやった。

 

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