第33話

 さて、親狐も消えたことだし、そろそろ人化のスキルでも試してみようかな。

 

 親狐が居なくなったことでまた俺に頬っぺを擦り付けてきている小狐を無視して、俺はそう思った。

 小狐はなんでか服を着た状態で人化出来てたけど、俺はどうなるんだろうな。

 小狐が人化してない状態だったら別に裸でも問題はなかったんだけど、今はまだ美少女の状態だからな。

 裸だったら、普通に恥ずかしい……と思う。

 ……でも、まぁいいか。

 今はそんなことよりも好奇心の方が勝ってるわ。


(人化!)


 そうして、俺はわくわくとした気持ちを隠そうともせずにスキルを使った。

 すると、直ぐに視界が高くなっていき、小狐が人化した姿から頭一個分くらい大きくなったところで止まった。

 ……うん。小狐より大きいのは心の底から良かったと思えるけど、頭一個分かよ。

 小狐自信があんまり大きくないから、俺も傍から見たら子供に見えそうだな。

 そして、服は何故かちゃんと着ていた。

 黒い服で服だけを見たらかっこいいんだけど、俺の見た目が分からない以上、似合ってるのかは謎だ。

 

「キューっ!」


 人化できたことは嬉しいし、服を着ていたこともまぁ嬉しい。

 服を着ていなかったら人の街に行くにはまず服を探すところから始めなきゃダメだったけど、服を着ている以上、そのまま行こうと思えば街に行ける。

 だから、そこは良かったんだけど、小狐が背の高さ的に頬っぺを顔に擦り付けられないことを不満そうにしたかと思うと、今度は嬉しそうに俺の胸に頬っぺを擦り始めた。

 ……これが少し前まで……そう、親狐に出会う前までなら何やってるんだこいつ、もう人化も出来たし、置いて行こう、って思ってただろうけど、親狐に小狐の世話をするように言われてしまっている以上、無下にはできない。


「……よしよ……ん? あれ? 俺、喋れる!?」


 そう思いつつも、小狐の耳が俺の鼻をくすぐって邪魔だったから、小狐を突き放そうと思ったんだけど、もしも親狐がどこかから俺たちの姿を見ていた場合今度こそ殺されると思ったから、邪険にしているように見えないように耳を退かすために頭を撫で始めたところで、気がついた。

 俺、喋れるようになってるじゃん。口も鼻もついてるじゃん、と。

 人化したんだから当たり前といえば当たり前なんだけど、親狐の怖さで忘れてたよ。

 

「キュー?」


「え? あぁ、うん。よしよし」


 突然頭を撫でることをやめたからか、小狐がそんな鳴き声を上げながら小首を傾げてきたから、俺は適当に返事をしながら、痛くないように耳を押え付けつつ頭を撫でた。

 

「とにかく、これで街に行って情報収集が出来るな」


 やっぱり俺は色々とこの世界について知らなさすぎるからな。


「キュー? ま、ち?」


 ん? 俺の言葉を真似したのか? ……そうか。別に小狐も人の言葉を喋れない訳では無いのか。

 ……でも、なんで今なんだ? 親狐の言葉を真似したりして言葉を覚えるチャンスなんていくらでもあったと思うんだけど、まぁいいか。

 親狐のせいで仕方なくってのもあるけど、こう見ると少しだけ可愛く見えてきたかもしれないわ。

 ……現実逃避だけど、楽しめないよりはいいだろう。

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