第32話
……どうしよう。
この雰囲気、俺はもう行ってもいいのか? それとも、ダメなのか?
口が無いから喋れないし、意思疎通と出来ないから全く分からない。
……一応、さっきゼツから奪った人化のスキルを使えば喋れるようになるだろうけど、自ら進んであれと話なんてしたいわけが無い。
少しでも選択肢をミスしたらゼツと同じように灰すら残さずに燃やされるのなんて分かりきってるんだから。
何故か小狐に気に入られているっていうアドバンテージはあるけど、それもどこまで通用するか分からないし、出来ることならさっさとこの洞窟を出てあれから逃げたい。
……もう小狐のスキルにも興味は無い……ことは無いけど、奪おうとは思ってないから、小狐とも普通におさらばしたい。
「キュー!」
久しぶりの再会? が嬉しいのか、小狐は俺の恐怖の対象、親狐の胸に向かって飛び込んでいた。
羨ましい……なんて気持ちは全く起きない。
小狐が人化した時と違ってかなり胸が大きいけど、全くそんな気持ちは湧いてこなかった。
まぁ、当然と言えば当然か。……俺にとっては恐怖の対象であってそれ以上でも以下でもないし。
……小狐はまだ人化している状態だから、耳とか親狐の尻尾を気にしなければ普通の親子の再会に見えるな。
どうでもいいけど。
よし。それじゃあ感動の再会を邪魔する訳にはいかないし、今度こそ本当に俺は行かせてもらおうかな。
どう考えても今が絶好のチャンスだと思うし。
「待つのじゃ」
ゆっくりと、バレないように動き出そうとした瞬間、さっきと同じように、俺は親狐にそう言って声をかけられてしまった。
流石にあれの言葉を無視して洞窟を出ようとする勇気は俺には無く、言う通りに直ぐに立ち止まった。
……あれの言葉に背くのは勇気とかじゃなく、絶対蛮勇とかの方だと思うし。
「妾はもう行く。そこでじゃ、其方に妾の娘を守る権利をやろう。断ったりはせぬよな? 妾の娘と一緒に居られるのじゃぞ? 其方も嬉しいであろう?」
あ、やばい。すごく断りたい。
でも、断れる訳が無い。
……と言うか、そんなに大事な存在ならあんた自身が一緒に居たらいいだろ!?
そう思いつつも、俺はさっきと同じように体を上下に動かし、肯定の返事をした。
「そうか。それは良かったのじゃ。……では、娘よ、またいつか会おうぞ」
すると、親狐は抱きしめていた小狐を優しく離し、そう言った。
……スキルを奪おうとした時に頭の中で響いた言葉のおかげで知ってるけど、親なら名前くらい付けてやったらどうだ? って思うんだけど、魔物の世界じゃこれが普通なのかな。
もう行こうとしてるし、人化して聞いてみようかな。
いや、やめとこ。普通に怖いわ。
一秒でも早くどこかへ行ってくれ。頼むから。
「キューっ!」
小狐のそんな鳴き声と同時に、親狐は消えた。
……はぁーっ、怖かった。
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