第31話

 金髪や耳が生えてるのは小狐と同じだけど、小狐の親? と思われる奴は人型なのに何故か尻尾まで生えていた。一本じゃなくて、九本も。


「ま、待ってよ。僕はそっちの子には何もする気なんてないよ」


 そして、そんな小狐の親に向かってゼツは明らかな命乞いをしていた。

 ……おかしいな。さっきまで恐怖の対象だったのに、今じゃ普通に命乞いをしている情けないドラゴンにしか見えない。


「安心するが良い。妾はちゃんと見ておった。其方が死ぬのはもう決まっておる」


「ぼ、僕は平和に暮らしてただけだよ? 確かに昔はちょっとやんちゃとかしちゃってたかもだけど、今はこの洞窟の奥でひっそりと暮らそうとしてただけなのは君も知ってるでしょ?」


「仮に其方が妾の娘に何もしていなかったとしても、そのスライムは妾の娘のお気に入りらしくてな。分かるだろう?」


 ……えっと、この感じ、俺にとってもあれは味方ってことでいいのか?


「僕はスキルをそのスライムに奪われてるんだよ!? 手を出してきたのはあっちだ! 僕は久しぶりのお客さんだったから、歓迎しようとしてたんだよ!?」


「奪われる方が悪い。妾達は魔物じゃ。其方も昔は奪うものは違うとはいえ、人族たちから色々と奪っていたであろう。自分の番が来たと言うだけの話じゃ」


「ッ」


 小狐の親がそう言った瞬間、ゼツは俺たちを無視して洞窟の外に逃げるように走り出した。

 ただ、俺が人化のスキルを奪っていたからか、人化することはできず、洞窟の壁にその巨体をぶつけていた。

 あの時、何かスキルを奪われていたことは理解していたみたいだけど、なんのスキルを奪われたのかは理解出来てなかったんだな。


 少なくともゼツの脅威は無くなったから、呑気にそんなことを考えていると、ゼツの体が急に炎を纏ったかと思うとほぼ同時に、灰すらも残さずにゼツが消えた。


 ……マジかよ。

 どれだけ化け物なんだよ。

 ……というか、体が無くなったから、スキルを奪えないんだけど。

 そう考えると、さっき人化のスキルを奪えたのはラッキーだったのかもな。


 よ、よし。

 じゃあ、そろそろ俺は行かせてもらおうかな。


「待つのじゃ」


 未だに小狐に頬っぺを擦り付けられつつも、そう思った俺は、小狐に離してもらおうと暴れだした。

 すると、直ぐに小狐の親がそう言ってきた。


「まさかそんな気があるとは思えぬが、一応言っておこう。他はどうでもよいが、妾の娘に何かをしたら命は無いと思うのじゃぞ」


 俺は直ぐに体を上下に動かし、肯定の返事をした。


「ならばよい。そもそも、あれとは違いスキルが奪えるとは思えぬがの」


 ……もしかして、小狐からスキルが奪えなかったのは何かこいつが細工をしてたからなのか?

 いや、もういいや。

 人化のスキルはゼツから奪えたし、もうどうしても小狐からスキルを奪いたい訳じゃないんだ。

 そもそも、バックにこんな怖い存在がいるんだから、スキルを奪う気なんておきるわけがないし。

 ……というか、この警告は俺が小狐からスキルを奪おうとしていたのを分かった上での警告っぽいし、絶対に次は無いって言うのが分かる。

 今だってあれが俺に何もしてこないのは小狐が俺を何故か気に入ってるからであって、小狐に見捨てられた瞬間俺は終わるんだ。……うん。奪おうなんてもう思えるはずがない。


 まぁ、あの時の俺からしたら圧倒的存在だったゼツからはスキルを奪おうとしてたわけだけど、小狐の親は本当に別格すぎてそんな気すら起きないんだよな。

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