第30話

「キュー!」


 今この状況に後悔はしてない。……が、踏み潰されているせいで視界も転生したばかりの時みたいに何も見えない状況。……本当にもうここで終わりなのかと思い始めていたところで、小狐のそんな鳴き声が聞こえてきた。


 どうやってかは分からないけど、あの炎の中、生きてたのか。

 ……視界が無いから、もしかしたら小狐も満身創痍だったりするのかもな。

 声を聞く限り全然そんな風には思えなかったけど。


 まぁ、今はそんなことより、この状況を小狐がどうにかしてくれるのかってことだ。


「君の方も生きてたのか」


 ゼツも俺と同じくほぼ死んだと思ってたみたいで、驚いたようにそう言う声が聞こえてきた。

 そうだよな。普通、生きてるとは思わないよな。


「君は僕のスキルを奪った訳じゃないし、今なら好きに帰ってくれていいよ」


「キュー!」


「何故? これは何もしてない僕のスキルを勝手に奪うような最低な魔物だよ?」


 ……こいつ、小狐の言葉が分かるのか?

 と言うか、ゼツの言っていることが正論すぎて返す言葉が無いな。

 これだけの強さを持ってるんだから、絶対めちゃくちゃ暴れた過去はあるんだろうけど、少なくともあの時は本当に歓迎してくれようとしてたっぽいからな。

 

「キュー!」


「それも僕と同じように君のスキルを奪うためかもしれないよ?」


「キューっ!」


「奪われてなんかないから関係ないって? ……確かに。だったら、なんで僕のは奪ってきたんだろうね。……九尾のスキルなんて僕と同等に魅力的だと思うんだけど」


 ……奪おうとしてるんです。

 なんかゼツの会話を聞く限り小狐は俺の事を信頼してくれてるっぽいけど、めちゃくちゃ奪おうとしてるんです。

 ゼツに対しては覚悟を決めた上での行動だしどうでもいいけど、少なくとも一ヶ月は一緒にいた小狐に対しては少しだけ罪悪感が湧いてきたよ。

 いや、小狐のスキルも最初奪おうとした時は覚悟を決めてたんだけど、何故か奪えなかったし、その覚悟が薄れてきてるんだろうな。


「まぁ、今はいいや。……それより、このスライムを生きて解放して欲しいのなら、君の方からも僕のスキルを返してくれるように説得してよ」


「キュー!!!」


「そう。それは残念だよ」


 踏み潰されながらもゼツの圧が上がったのを理解した。

 その瞬間、なにか大きな音と共にゼツの足が俺の上から退かされた。


 体が再生した。

 ただ、俺は動くことが出来なかった。

 だって、ゼツ以上の圧がそこにはあったから。


「妾の娘に何をしているのじゃ」


 理解した。小狐がゼツの圧に怯えなかった理由。

 これが小狐の親なんだとしたら、生まれた時からこんな存在が近くにいるんだ。

 ゼツなんかに怯えるわけが無い。


 そんなに怒るほど大事な存在ならなんでずっとそばにいなかったんだっていう疑問はあるけど、今はそんなのどうでもいい。

 それよりも、俺はどうしたらいい? もうゼツのスキルとかを気にしてる場合じゃないぞ。

 もしも俺が小狐からスキルを奪おうとしていたことをこいつが気がついていた場合、俺は確実に死ぬぞ。


 そんな俺の内心の恐怖なんて全く気がついた様子無く、小狐は再生した俺の体に美少女の体のまま頬っぺを擦り付けて来ていた。

 ……俺の内心はともかく、傍からみたら結構仲良く見えるし、小狐の親も俺に怒ったりなんてしないよな。……うん。

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