第29話

 炎の中を突き進み、俺はゼツの足元にまでやってきた。

 まだゼツにはバレてないみたいだ。

 ……隠密スキルを見破る程の力くらいもってそうだが、これもゼツにとっては盲点ってやつなのかもな。

 まさかこの炎の中を突き進んでくるだなんて思ってないんだろう。


 さて、近づけたはいいがどうしようかな。

 何のスキルを使えばゼツを倒せる?

 ……毒は効かない。多分だけど毒に耐性のあるスキルを持ってるんだろう。

 ……ん? それを奪えば毒が効くようになるよな。……ということは、今俺がすべきことは強奪スキルを使うことか!

 運になってしまうが、仮に毒に耐性があるスキルを奪えなかったとしても、他のスキルを奪えるならそれで十分だ。

 まぁ、人化スキルだけは今は絶対に要らないけど。

 今、人になったところで何が出来るんだって話だし。


(強奪!)


 俺はどうせ踏み潰されたとしても不死身スキルで再生するんだしと思って、ゼツの足に軽く体を当て、強奪スキルを発動した。


【個体名ゼツから一部スキル、人化Lv2を強奪に成功しました】


「ガァァァァァァァァァァァァァ!」


 今は要らねぇ! と思うと同時に、ゼツは三度目にもなるとスキルを奪われたことに気がついたのか、そんな咆哮を上げ、俺の体を洞窟の壁まで吹き飛ばしてきた。

 

 痛ってぇ……また体がぐちゃぐちゃになっちまったじゃないかよ。

 ……いくらスライムの体でもただの咆哮に吹き飛ばされることなんて無いだろうから、何かこれもスキルなんだろうな。

 せめてそっちを奪わせてくれよ。俺には口が無いからそっちのスキルも使えなかったかもだけど、どうせ人化のスキルはゼツを倒したら手に入るんだ。

 だったら、せめてゼツの手数を減らさせてくれよ。


 そんな俺の内心を読んだわけでは無いだろうけど、ゼツはそのまま俺が再生しないように炎の中再生しかけている俺の体を足で踏みつぶしてきた。

 俺がこの炎の中でゼツに近づけたことから炎に耐性が出来たのを予想したのか。

 ……クソ、思考は出来ても体が再生しないことにはスキルも使えないみたいだし、本当にまずいぞ。

 

「僕のスキル、返してくれる気になったかな?」


 その姿でも普通に人の言葉喋れたのかよ。

 って、今はそうじゃなくて、この状況をどうにかしないと。


「今なら特別にスキルさえ返してくれるのなら許してあげるよ」


 俺のスキルは強奪だけであって付与とかそういうものは無いんだよ。

 だから、返せたりなんかできないし、仮にできたとしても、今スキルを返したって俺の体はぐちゃぐちゃだ。

 つまり、スキルを返した瞬間に絶命するんだよ。

 だから、スキルを奪ったことは許したって生きてここを帰す気は無いってことだろ? どち道詰んでる。


「キュー!」


 今この状況に後悔はしてない。……が、踏み潰されているせいで視界も転生したばかりの時みたいに何も見えない状況。……本当にもうここで終わりなのかと思い始めていたところで、小狐のそんな鳴き声が聞こえてきた。

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