第34話
小狐に言葉を教えつつってわけじゃないけど、言葉が喋れるようになったのに小狐を無視して何も言わずに歩いてて親狐の不興を買いたくないから、俺は小狐と適当な話をしながら、洞窟を出た。もうあの洞窟に用は無かったからな。
……まぁ、小狐と適当な話と言っても、小狐はまだ喋れないし、俺が一方的に喋ってるようなものだけど。
「よし、無事に洞窟を出れたことだし、さっき言った通り、街に行こうか」
街は、あの俺にとってのチュートリアル村から逃げ出していた女、子供の向かっていた方向に行けばあるだろうし、場所は大丈夫だ。
「キューっ!」
俺の言葉に鳴き声を上げている小狐を見て、俺は思った。
強いて問題を上げるとするなら、やっぱりこいつだよな。
……俺は感覚的に完全に人間と同じ見た目に人化できていると思うけど、小狐は尻尾は無いけど、狐の耳があるんだよ。
……この世界に前世で言うところの獣人って種族が居れば獣人ってことで話を通せるんだろうが、もしもそんな種族が居なかった場合は一発で小狐が魔物だということがバレてしまう。
そして、小狐が魔物だということがバレてしまえば自動的に一緒に行動している俺も見た目は人間だけど魔物なんじゃないか? と疑われてしまう。
それは不味い。本当に不味い。
それだけは避けなくちゃならない。
人間が……いや、人類がどれだけの力を持っているか分からない以上、なんの理由も無い……だけじゃなく、小狐のせいで敵対するなんて嫌に決まってる。
「はぁ。小狐」
「キュー?」
小狐は自分が小狐と呼ばれていることはちゃんと理解しているみたいで、俺の言葉に首を傾げてきた。
「人化した姿じゃなくて、小狐の姿に戻ってくれるか? ……ほら、ちっちゃい状態だよ」
言葉だけじゃ伝わらない可能性も考えて、手でジェスチャーをして俺は小狐に意志を伝えた。
すると、小狐は俺の意思を理解してくれたのか、人化を解いて美少女の姿から元の小狐の姿に戻ってくれた。
……疲れる。
なんで俺が小狐の為にこんな苦労を……とは思うけど、親狐の姿を思い浮かべたら一瞬で疲れが吹き飛ぶんだから、本当に不思議だ。
はぁ。
一番最初に小狐が人化した姿を見た時は、そのスキル欲しい! って思い以外にも一応見た目は美少女だし少しくらいは邪な考えも抱いていたんだが、親狐の存在を知ってしまった今は全くそんな思いは湧いてこなかった。
「……はぁ」
内心でも溜息をつきながら、口でも溜息をついた俺は、小狐を優しく抱っこしながら、街に向かって歩き出した。
街の近くに行ったら服の中に隠せば大丈夫だよな。
……仮にバレても見た目はただの小狐だし、ペットとでも言えば平気だろう。……多分。
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