第17話

 隠密スキルと草木のおかげであいつらに俺の存在は気が付かれていないし、不意打ちスキルが発動する。

 

 そう思った俺は、万が一にも気が付かれる可能性がある以上、不意打ちスキルの効果を乗せるためにさっさと攻撃を開始することにした。

 

 毒……よりも超音波の方が多分不意打ちにはいいよな。

 毒は一回毒生成のスキルを使わないといけないし、そこから更にウォーターボールなんて打ってたらいくらちょっと馬鹿そうな顔をした人間二人でも気が付かれてしまうだろう。


(超音波!)


 そう思って、俺は一応兄貴と呼ばれていた方に向かって超音波を放った。

 そっちの方が多分強いだろうからな。明らかに兄貴って呼んでた奴は下っ端か子分っぽいし。


「な、なんっ​──」


「あ、兄貴!? だ、大丈夫ですか!?」


 俺の超音波によって倒れ込んだ兄貴と呼ばれる男に向かって子分っぽい男は怯えたような、困惑したような感じで駆け寄っていた。

 まさか誰かの攻撃で兄貴と呼ばれる男が倒れただなんて思っていないのか、子分っぽい男に周りを警戒する様子は無かった。

 さっきまで危険なところって自分たちで言ってたのに、なんで警戒しないんだ? と思いつつも、俺は気が付かれていないことをいいことにもう一度不意打ちスキルを乗せた超音波を放った。


「あっ​──」


 すると、今度は子分の方の男も倒れ込んだ。

 二人の人間が動かなくなったのを確認した俺は、兄貴の方の男が倒れ込んだ時に鉄製の音を立てて落としていた檻の方も一応確認しながら、男たちに近づいて、念の為もう一度ずつ超音波を放った。

 それでも、男たちに動く様子は無い。

 よし、ちゃんと死んでるな。

 

(強奪)


【個体名ロウルからスキル、身体強化(小)を強奪に成功しました】


【個体名シウトからスキル、囮を強奪に成功しました】


 兄貴と呼ばれていた男から奪ったスキルの身体強化(小)は普通に嬉しいから良いとして、この子分っぽかった男のスキルは本当にいらないぞ。なんだよ、囮って。


 まぁいいや。

 それよりも、気になるのはこの男二人がレアっぽい感じで捕まえていたこっちの子狐の方だ。

 そう思って、男たちの亡骸の方から目を離し、兄貴と呼ばれる男の手からこぼれ落ちていた檻の方に目を向けたのだが、そこにさっきまでいたはずの子狐は居なかった。

 ……は? 俺、さっきまで注意をちゃんと向けていたはずだぞ。

 あいつ、一体どこに……


「キューっ!」


 俺が捕まえた訳では無いとはいえ、敵対する可能性も考えて辺りを警戒しようとした瞬間、後ろからそんな鳴き声と共に俺は子狐に頬ずりをされ始めた。

 ……なんだ? こいつ。……まさかとは思うが、俺が助けたとでも思ってるのか?

 だったら、残念だったな。俺は魔物になった時点で、もうとっくに人の心なんて捨ててるんだ。

 

(強奪)


 自分から体を俺にくっつけてくれるのなら好都合だ。

 俺は強奪スキルを使った。


【種族名九尾からスキルを強奪することに失敗しました】


 ……え? は? 失敗……? 失敗、とか、あるのか? 

 確かに、あの洞窟にいた時は少しだけ失敗することもあるのかも、なんて考えてたこともあったけど、今の今まで全然失敗する素振りなんてなかったし、失敗することなんてもう全く考えてなかったんだが?


「キュー?」


 俺のそんな内心の困惑を知ってか知らずか、相変わらず俺に頬ずりをしていた子狐は顔を傾げながらそんな鳴き声を上げてきた。

 クソっ。こいつがどんなスキルを持っているのかは気になるが、奪えないのなら奪えないで割り切るしかない。

 もうさっさとこいつからは離れよう。

 スキルが奪えない以上、さっさと離れた方がいい。

 いつ俺に敵対してくるか分からないしな。


 …………ん? なんか、おかしい気がするな。

 何がおかしいのかは分からないが、何か、何かがおかしい気がする。違和感というか、なんというか……。


 俺が自分の中に生じている違和感のことを考えていると、ボフッ、という音が突然鳴ったかと思うと、子狐から煙が吹き出してきた。

 やっぱり敵対してきたのか!? と思った瞬間、子狐の見た目は狐耳の生えた美少女に変貌していた。

 ……待って、そのスキル、めちゃくちゃ欲しい!

 

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