第13話

 あの洞窟を出てから、転生して初めての太陽を見れたことと人を殺すという経験値を得ただけで他にはほとんど何も得られていないようなものだし、全く強くもなっていない。

 どうせ時間はいっぱいあるんだし、別に焦る気持ちなんて出てこないけど、こんなことならあの洞窟に居て、レベルを上げてた方が良かったかもな。

 あの洞窟にいる魔物のスキルはほとんど奪い尽くしていたとはいえ、あそこにいたらレベルは上げられたしな。


 ……いや、レベルを上げた程度であの奥にいた存在に勝てたかは分からないし、後悔なんてくだらないことをするのはやめよう。


 そんなことよりも、更に俺が強くなるにはやっぱり新しい強力なスキルが必要だと思うんだよ。

 そして、単純に考えるのなら、街があると思われる方向とは逆の方向に進み、森の奥に進んで行けば何か強い魔物がいると思うんだよ。

 だから、俺の進むべき方向はあっちなんだけど、その強い魔物っていうのがどの程度の強さか、って話だよな。


 慎重に行くのならそんなところに行くべきでは無いんだろうけど、あの洞窟の奥にいた存在に勝つには多少のリスクくらい犯さないとダメだという矛盾がある以上、そういうわけにはいかない。

 ……仕方ない、行くか。強い魔物がいると思われるあっちの方向に。

 レベル1とはいえ、隠密スキルがあるんだ。

 どこまで信用していいのかは分からないが、周りに細心の注意を払って進んで行けば不意打ちを受けたりはしないだろう。

 あんまり俺は自分の防御力ってのを分かってないけど、見た目的に多分かなり脆いだろうし、本当に気をつけていこう。




 そうして、隠密スキルを発動させながらも細心の注意を払って俺は森の中を進んでいた。

 洞窟を出てすぐに出会った角の生えた鹿みたいに、ところどころ俺の見た事の無い生物が居たのだが、どいつもこいつも俺が奪えるようなスキルを持ってはいなかった。

 だからこそ、俺は思っていた。

 あれは魔物なんかではなく、ただの動物か何かだからこそ、スキルを持っていないのではないか? と。

 まぁ、仮にあれがこの世界の動物だったとしてもスキルくらい持ってる奴は持ってるかもしれないし、ただ俺の運が悪いだけなのかもしれないけどさ。


 早くなにか強いスキルを持った魔物……いや、魔物じゃなくてもいいから、生物が出てきてくれないかなぁ、と思いながら森の奥に進み続けていると、突然、俺が歩いていた地面が動き出した。


 な、なんだ?! 誰かからの攻撃か?!

 そう思い、周囲に視線を向けるが俺に攻撃をしていそうな生物は見当たらなかった。

 それでも、俺が気がついていないだけでこれが誰かからの攻撃の可能性がある以上、俺は俊敏スキルを使って、直ぐにその場から逃げるように移動した。

 そして、遠目……というほど遠目でも無いけど、遠目で俺がさっきまでいた場所を見てみると、そこの地面だけが揺れていることに気がついた。


 ……どうなってるんだ?

 なんであそこだけが揺れてるのかは全く分からないが、あそこだけが揺れているってことは、あれは俺への攻撃では無かったってことでいいのか?

 ……分からないな。

 流石に無いとはおもうけど、俺が知らないだけで、この世界の住人からしたら地面が揺れることなんて日常茶飯事なのかもしれないし、本当に分からない。


 しばらく何かが起きるのかと周囲を警戒しながらも揺れている地面を見ていたのだが、特に何かが起きる様子は無く、分からないものは仕方ないし、もう無視して先に進むか、と俺が思い始めたところで、揺れていた地面にひびが入ったかと思うと、その地面を突き破って、前世でいうところの軽トラックくらいの巨体を持ったトカゲのようなものが現れた。

 俺の体がスライムだからか、本当にデカいな。

 少し動いただけで俺なんて踏み潰されるんじゃないか?

 ただ、そうだな。確かに、あれが地中の中で動いてたんだとしたら、あの揺れにも納得ではあるか。


 ……こいつは流石に何か良いスキルを持ってそうだよな。

 スライムの体のせいで口は無いけど、もしも口があったのならニヤリ、とした笑みを浮かべて、俺はそんなことを思っていたことだろう。

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