第9話

 あれは……角の生えた鹿か?


 洞窟を出て、前に進み出して直ぐに俺は早速魔物? と出会った。

 こいつもどうやら俺とは敵対しない魔物なみたいで、不意打ちの超音波で難なく倒すことが出来た。


【強奪できるスキルを確認出来ませんでした】


 そして、いつも通り倒した魔物の体に触れてスキルを奪おうとしたのだが、聞こえてきたのはそんな言葉だった。

 ……冗談だろ? こいつ、スキルを何も持ってなかったのか?

 ……一応、俺がもう既にレベルを最大に上げているスキルを持っている可能性もあるけど、そんなピンポイントで俺が最大レベルに上げたスキルを持っているようなものか?

 ……はぁ。結局考えても分からないし、もういいや。先に進もう。

 

 そうして、先に進んでいると、パッと見で百体くらいのゴブリンがどこかに向かって一方向に歩いているのが見えた。

 相変わらずと言うべきか、あの洞窟と同じで俺とゴブリンは敵対しないみたいだったから、俺は興味本位でゴブリンについて行ってみることにした。

 百体くらい居るとはいえ、結局ゴブリンだし、倒そうと思えば倒せるけど、コイツらについて行ったら何か俺の見た事のない魔物がいて、そいつから新しいスキルを奪えるかもだし、ついて行くのも悪くは無いだろう。

 何もいなかったら何もいなかったでこいつらを倒して、経験値を貰えばいいだけだし。


 そう思ってゴブリンの集団に一匹スライムが加わっているという訳の分からない状況になりつつも、ゴブリンの集団について行っていると、村? のようなものが見えてきた。

 ここがこのゴブリン達の住んでいる場所なのか? とも一瞬思ったけど、それは直ぐに違うことだということに気がついた。

 何故なら、見えてきたその村には普通に人間が居るのが見えたからだ。

 その瞬間、直ぐに理解した。

 このゴブリン達はあの村を襲うために移動していたんだ、と。


 もしもあの村に戦う能力を持った人間が居ないのなら、気の毒だとは思う。

 ただ、それでも、俺はあの村を助けるためにゴブリン達を殺そうとは思えなかった。

 この世界で魔物として生きていくと決めた以上、人間と敵対する瞬間ってのは必ず訪れると思うし、この世界の人間がどの程度戦えるかを見ておかなければならないと思うからだ。それがたとえ戦う能力の無い人間なんだとしても、知っておかなければならない。


 ……まぁ、割とそれは建前で、本当は人の死って奴にも慣れておいた方がいいと思ったからなんだけどな。

 あの洞窟で初めて人間? らしき奴らの声が聞こえた時、もしも見つかったら絶対に殺す気ではあったけど、本当に行動出来ていたかは分からない。だからこそ、いざって時にちゃんと人間を殺せるように、間接的とはいえ、人の死に慣れておきたかった。

 本当に気の毒だとは思う。それでも、運が悪かったと思って、俺の糧になってくれ。

 村の人達がゴブリンに抵抗する力が無かったのなら、仇としてゴブリンは後でちゃんと始末しておくからさ。

 死んだ人間のスキルも奪わないとだしな。


 明らかに心が魔物に染まっていることを自覚しながらも、俺はゴブリン達から少し距離を取って、ここからどうなるかを見守ることにした。

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